いぬぼく/お互いの鎖に ミケちよ
どうにも寝られないときがある。
それは、身体が冷えてしてしまっていたり、まだ何となく眠りにつきたくないと思ったり――理由はその時々によって異なるが、何となくアルコールを身体に入れたいと思うのだ。
ほんの少しだけ呑んで部屋に戻るつもりなのに、ラウンジに迎えば、いつだって賑やかな声がしていて。 呑もう呑もうと必ず呼び止められる。 たまにしかここに来ないというのに毎回ここで彼らに会うということは、毎日彼らはここに来ているのかも知れない、と思ったこともあるがどうやら違うらしい。
「そーたん何呑むー?」
残夏は双熾を手招きし、空いているソファーをちらりと見遣る。 そこには一人が座れるスペース。ここにどうぞ、ということなのだろう。
「アルコールが入ってれば何でも構いません」 「アルコールによって自らの喉を痛め付けるというのか!悦いぞー!」
蜻蛉が訳の分からないことを言うのもいつものことなので、残夏も双熾も気に留めない。 カラリと氷がグラスにぶつかる音がする。双熾は残夏が手渡したグラスを煽った。
液体が喉を滑り落ちる感覚の後に一瞬暑くなる。 さらにそのあとに無意識に喉がきゅっと締まったところから見ると、思ったよりアルコール度数は高いようだ。
「最近ね、良い雰囲気だよねー。ここにいるみんながちょっとずつ変わって来てるねー」 「そう……ですね」
ここにいる者を思い出す。 凛々蝶は勿論だが、その他の人も多くの時間を接しているからか、目を瞑っていても頭に浮かぶ。 容姿ならず言動までもが、鮮やかに。
「でも僕はそーたんが一番変わったと思うなー」 「そうだな、貴様が一番変化した」
空いているのかそうでないのか、何が視えているのか分からないその目を細めて残夏は言う。 双熾からしてみれば、目の前にいる男達も変わった、と思う。 たった数ヶ月の間に、凛々蝶を通して変化した。
全てを見透かす目を持つ男は前よりも傍観することなく干渉してくるようになったし、元の主も言動に関してはコメントし難いが、周りを見渡すようになった。 しかし変化に関しては、自分ではどう変わったのか分からない。どこがどう変わったのだろうかと考えれば更に分からなくなった。
「貴様に関しては恐らく許嫁殿もそう言うだろう!」 「そうでしょうか……」 「そーたんは他の人のことは良く見てるくせに、案外自分のことは無頓着だからねー」
その変化が良いものになっているのだろうか。凛々蝶様の為になるのであれば何でも良い。 自分は凛々蝶様の為に存在するのだから。 そういえばちよたんと言えばさー、と残夏は楽しそうに言った。
「ねーねー、そーたん。最近ちよたんどうなのー?」 「今日もお可愛らしいです。美容院に赴こうとしていらっしゃったのですが、どの人であろうとも凛々蝶様の髪に誰かが触れるのが耐えられないと申し上げたら、では君に頼もうとおっしゃって下さったので美しい御髪を切ろうとしたのですが、やはり心が痛みます……。最近はダイエットを試みていらっしゃるのか、カロリーを低いものを召し上がろうとしていらっしゃいます。ありのままの凛々蝶様でいらっしゃれば良いと思いますし、僕はどんな凛々蝶様も愛しますし、」
そういうことじゃなくてさー。と残夏は苦笑する。隣にいる蜻蛉が引いているのは恐らく気のせいであろう。
「前より可愛いよねー、ちよたん。何?全部そーたん仕込みなの?」 「仕込むだなんて自分ごときが烏滸がましいことです。そうできたら素敵なことですが僕は凛々蝶様の犬です。寧ろ凛々蝶様に、僕を染めていただきたいです」 「互いが互いの鎖であるのか!ドSにしてドMだな!」 「もー。マスター!もっと強いお酒持ってきてー!」
呆れたような残夏の声が深夜のラウンジに響いた。
12.0208 双熾ぺらぺら喋りすぎですみません ミケちよを下さい
|