どうしよう。
白石のあんな笑顔見たら、告白なんてできない。

『俺な、千歳と付き合う事になってん。今めっちゃ幸せやわ』

満面の笑みで発せられた言葉。
それは俺にとって地獄でしかなかった。

白石の好きな人なんてみんな知ってる。
異様に仲がよくて、白石が妙に世話を焼いてて。

でも、ほんの少し。
本当にほんの少しの可能性を抱きながら、告白しようと思った。

そう、思ったのに…………。

残ったのは告白しなかった後悔と千歳への嫉妬心、敗北感。

自分の無力さに嘆きながら、白石と顔を合わせる気にもなれず、授業をサボった。

校内をフラフラしていると、図書室にたどり着いた。

ここならあまり人も来ないはずだ。

そう思い、一人で泣いていた。

すると背を向けていたドアが、ガラガラ…と、開く音がした。

あまりの突然さに驚き、一瞬硬直してしまった。

「何泣いてはるんですか?」

今度は話しかけられた驚きと、声の主が誰なのか分かった驚き。

「…っ…ひか、る…?」

振り向くと、黒髪に5つのピアスが飛び込んできた。
やはり光だった。

「どないしたんですか。謙也さんらしゅうない」

「…っ……」

光は無表情だった。
でも、いつもみたいなピリピリした感じじゃなくて…。
これは、俺を心配してくれてる…のか?

光の視線に耐えられなくなって、俺は少し俯いた。

その時思った。
これ以上泣き顔なんて見せられない。
いや、見せたくなかったのかもしれない。なんでだろう……。

とにかく俺は泣き顔をひっこめようとした。


沈黙。


俺はいつもの笑顔を保ったつもりで顔を上げた。

「なんでもあらへんよ」

そう、いつもの笑顔。

ちゃんといつもの笑顔になっているだろうか。
ううん。もはや笑顔にすらなっていなかったのかもしれない。

「ちゅーか光。お前なんでこないな時間に図書室なんかに来たん?」

なるべく、平然を装った

「光?」

つもりだったんだけど…。

「……光?」

光が返事をしないから心配になる。
もしかしたら俺の作り笑いに気づいてる…かも。

「謙也さん。無理してはる」

突然の光の言葉。
なん、で…?

「謙也さん、悲しそうな顔しとります。泣きそうな顔」

「え……」

「…………悲しいんでしょう?」

そう言って光は俺に背を向けて言った。

「泣きたいんやったら早よ泣いてください。泣き顔なんて誰も見ませんから」

「…っ……」

光は確かにそう言った。
俺は安心したのかもしれない。
気づいたら光の背中に顔を埋めて、泣いてた…

君は涙の理由なんて知らない。
教える必要がない?

そんなことないよ。


ただ、君に…




僕の弱さを見せたくなかったのかな…。




end.

あとがき