さーて、どうしようか。

授業サボったはいいものの、することがみつからない。
適当に中庭ででも寝るか。

そう思い財前光は、中庭に向かって歩いていた。

丁度図書室の前を通ったときだ。

「ぅ…っく、…っ…」

どこからか聞こえるこの声。
泣き声に間違いなかった。

ここで声がする…って事は、声の主は図書室の中か。

普段なら気にも止めずに立ち去るのだが、なぜか声の主が気になった。

俺は少し開いていたドアに手をかけ、ドアを開ける。

ガラガラという音に反応して、声の主の肩が跳ねた。
あの髪は……謙也さん?

間違いなかった。あの金髪は、俺が密かに思いをよせる忍足謙也さん。

なんでここに……

「何泣いてはるんですか?」

俺が話しかけると、謙也さんの肩がまた跳ねる。

「…っ…ひか、る…?」

振り向いた謙也さんはやっぱりいつもの笑顔じゃなくて。

「どないしたんですか。謙也さんらしゅうない」

「…っ……」

本当にどうしたんだろう。
少し心配になってくる。

謙也さんが少し俯く。


沈黙。


その空気に耐えられなくなって、俺は一瞬謙也さんから目を離した。
その間、何があったのだろう。

謙也さんはいつもの笑顔に戻っていて。

「なんでもあらへんよ」

いつもの笑顔。
いつ、もの……笑顔?

違和感を感じたが、それが何なのかよく分からなかった。

「ちゅーか光。お前なんでこないな時間に図書室なんかに来たん?」

やっぱり。
いつもの…………。

「光?」

………違う。

「……光?」

違う。
謙也さんはこんな笑い方しない。
謙也さんはこんな表だけで笑ったりしない。


謙也さんは……心から笑う人だ。

「謙也さん。無理してはる」

もはや疑問系にすらなっていない俺の言葉。

「謙也さん、悲しそうな顔しとります。泣きそうな顔」

「え……」

「…………悲しいんでしょう?」

何があったかしらへんけど。
そう付け加え、俺は謙也さんに背を向けた。

「泣きたいんやったら早よ泣いてください。泣き顔なんて誰も見ませんから」

「…っ……」

謙也さんは吹っ切れたのか、俺の背に顔を埋めて、声を殺して泣いてた。

涙の理由なんて知らない。
追求する意味なんてないから。

なんて可愛げのない事を言ってみる。

でもホントはね、君に…




笑顔になってほしかっただけなんだ。




end.

あとがき