「うーわ、雨」


最悪。
そんな言葉が似合う土砂降り。

私は傘を出そうと鞄に手を入れた。


「…ん?」


まさかこれは………。


「やっぱりか…」


ない。傘が。
朝、折り畳みのヤツを入れたつもりだったんだけどな…。


「…お?どないしたん?苗字」


普通、恋愛小説とかだったら、こういう時にかっこいい男の子とか好きな男の子が来てくれるはずなんだよね。

でも、私の前に現れたのは同じクラスのヘタレ代表スピードバカの、忍足謙也。特にこれといった接点はない。

しかもあんまり喋った事ないんだけど…


「見てわかんない?傘がないの」


あ。今、私すんごいキツい子。


「……なら入るか?」
「………は?」


状況がよく理解できない。
えっと…私は傘がない。忍足には傘がある…と。
んで忍足は傘に入らないかと言った。

……………なんで?


「え、頭大丈夫?」
「え、酷うない?」


忍足は私の言葉に酷いと言ったが笑顔のまま。
優しいのかなんなのか……。


「で、どないする?」


再度問い合わせ。さて、どうしようか。
この調子だと、土砂降りはやみそうない。
それどころか酷くなってる気さえしてきた。

………仕方ない。


「じゃあ、お言葉に甘えて入れさせてもらうよ」
「おん!」


心なしか忍足の声が弾んだような気がした。
いや…それはないか。


* * *


「そういや苗字と俺ってあんま喋ったことなかったんとちゃう?」
「だね。なのに何でこんな事してんだか」
「…………雨やから?」


端から見ればただのカップル。
だってなんか距離近くない?

なんて私が気にしてるのに、忍足は気にしてないみたい。
なんだろうなー…忍足って鈍いの?

それとも私の事――――…


いや、そんな考えはよそう。
なんか私が自惚れやみたいじゃない。




結構歩いただろうか。
分かれ道に差し掛かった。


「俺こっちなんやけど、苗字あっちやんな?」
「うん」


不意に忍足が笑う。


「なら、この傘持っていき。濡れて風邪でも引いたら大変やろ?」
「え…?」


忍足はそう言うと、じゃあなと付け加え、右側に走り抜けていった。


「……何それ。反則っしょ…」


なんで…

そんなに優しいの?

なんで…



あんなに、かっこいいのよ――…




恋に落ちる音がした
(私の心臓、)
(うるさいんだけど)


ちょっときつめな夢主ちゃんとヘタレてない謙也くん
メルトイメージしたけどちょっと話の展開違う
一年以上前に前のサイトに載せてた小説をちょこっと変えただけなのでいろいろおかしいかも

110323