「恵都、」


新婦控え室に居た、純白のドレスに身を包んだ彼女に声をかける。とても綺麗だ。本当に、それは目を見張るほど。さすが恵都だ、なんて思った。


「名前!」


僕を見つけて、笑顔になる彼女。笑顔が眩しくてくらくらするよ。冗談なんかじゃなく。
こんな綺麗なお嫁さん貰えて、スクール長は幸せもんだな。うらやましい。
立ち上がった恵都は、僕よりずいぶん小さい。その顔を綻ばせて笑う姿は、本当に可愛かった。


「結婚おめでとう恵都。スクール長にはもったいないくらい綺麗だよ」
「ありがとう名前。またスクール長なんて言って…浩一に怒られるよ?」


苦笑する姿さえも可愛くて、僕もつられて笑う。本当に、彼にはもったいないよ。
ふと、持ってきていた花籠の事を思い出した。ちょっと待ってて、と恵都に伝えて、廊下に置いていた花籠を持って部屋に戻る。


「恵都、これ」


それを目の前に差し出すと、彼女は驚いていた。それから嬉しそうに笑って、ありがとう。と呟いた。


* * *


新郎の控え室前。恵都の時も部屋に入るのは緊張したけれど、スクール長の場合はさらに緊張する。恵都と違い、スクール長へは花束だ。後ろ手に持って、控えめに扉を開く。


「スクール長ー」
「スクール長って呼ぶな」


あえてそう呼んでやれば、低い声が返事をした。部屋の中には予想通り、眉間にしわをよせた彼。もともとつり目だから、それが様になってて中々怖い。苦笑しながら部屋に入ると、普段からは想像もつかないようにきちっと式服を来た彼がいた。あー、駄目だ。かっこいい。


「やっぱ黒似合うね。かっこいい」


笑いながら言うと、彼は照れたのか視線をそらして黙ってしまった。そういう所は昔から変わらない。可愛い。


「ああそうだ、これ」
「……これ、」
「結婚おめでとう」


花束を差し出して、面と向かって言いきった。ちゃんと言えた。目を逸らしそうになったけど、逸らしちゃ心から言ってないと思われちゃう。ちゃんと、思ってるよ。心から祝福してるから。


「…名前」
「何も言わないでよ。これでも泣きそうなんだから」
「……ありがとう」


目を瞑って少しうつむいて。薄く微笑んだ彼は、とても嬉しそうで、こっちまで嬉しくなる。
花束を渡すため、彼の近くまで寄る。両手で渡すと、両手で受け取ってくれた。それから僕の頭を優しく撫でる。


「…やめてよ」
「これが最後だから」
「……っ、相手が違うでしょ」
「うん。…そうだね」


変わらないその手のぬくもりに、泣きそうになる。もう期待なんてしてないけど、優しくされたら忘れられなくなるじゃないか。一度振った男なんて、切り捨ててくれていいのに。


「浩一は優しすぎるよ」
「そんな事ない。俺は名前を傷つけてばかりだ」


そうやって彼が申し訳なさそうに困った顔をするから。
僕、まだ浩一が好きなんだよ。
伝えられない。伝えちゃいけないこの想いが届かないように、そっと目を瞑って最後になるその手のぬくもりに身を任せる事にした。




結婚式場の事はよくわかりません
大きな手は変わらないね/120224