――気づいたら俺は此処にいた。
真っ白な地面。
真っ暗な世界。
辺りは殺伐としておりあるのは枯れ果てた木だけだ。
いたって普通のサラリーマン。それが俺。
金も生活に困らない程度はあったし、数年前には女もいた。
だが、気づいた時には家も金も女もいない此処にいたのだ。
俺は走った。
この四季の無い世界が何処なのか知るために。
いくら時間が経とうと光の差さないこの世界が何なのか知るために。
もう、何時間経っただろうか。
雪らしき物が辺りを取り巻いているのに寒さを感じない。人間の本能である空腹もないのだ。俺はため息をついてその場に座った。
すると急に昔付き合っていた女のことをふと思い出した。
長い黒髪が綺麗な女性。笑ったときにえくぼができるのが特徴で、俺はそれが一番好きだった。
そんな彼女は普通じゃないことを嫌っていた。
それは彼女の生きてきた家庭に原因があったんだと思う。
彼女の家は――普通じゃないと言えば普通では無いような家庭だった。
その彼女だから普通に生きることを望んでいたのだろう。
『私は普通に生きて、普通に生活して普通に恋したいの』
彼女がよく言っていた言葉だ。
気が強い癖に変なところで弱いそんな女だった。
今さら彼女の事を思い出してどうしたのだろうか。
俺は頭を左右に振り前を見上げた。
今は此処から出るのを考えなければならないんだ。
そう自分に言い聞かせまた歩き始めた。
前には変わらない絶望の色をした闇が広がっていた。
あれからどのくらいたったのだろうか。
俺は果てしない絶望を胸に抱えながら歩いていた。
すると一筋の灯りが差しているのが見えた。
とても弱く今にも消えてしまいそうな灯りに向け走った。
走って、
走って、
走って、いくら息が上がってもそれを振り払うかのように俺は走り続けた。
灯りに追い付いたと思ってそこを見ると真っ白な地面にぽっかりと穴が開いていた。どうやら灯りはそこから漏れていた光のようだ。
俺は此処にきて初めてみる光に心を躍らかせならも必死にその穴を覗いた。
「もうあの人がいって5年になるのね」
あ
「お前もどうだあいつの事なんて忘れてそろそろお見合いでも」
あ
「どうして分からないのよ!私は……私は……!」
あ
「いい加減気づけ!死んだやつは元には戻って来ないんだよ!」
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
(壊れた欠片は元には戻らない)
(090310)