私は鳥になりたい。

 そう彼女は言った。
 長い艶やかな髪を游がせながら彼女は空をあおぐ。
 風か強く吹く屋上。柵の下では、野球部だろう人たちが声を張り上げながら練習している。

「空って、澄んでいて広くて綺麗でしょう。こんなちっちゃな私でも受けとめてくれそうな気がするんです」


 彼女は何かを渇望するかのように手を前にだし、話す。その表情は恍惚としているような、深い海の底のようななんとも言い表せないようなものだった。

「この空を飛んで旅をしてみたらどんなに気持ちが良いんでしょうね」


 ねぇ?


 彼女は僕の方を振り返り言う。



「この汚い世界からも飛んで出られたらどんなに良いんでしょうか?」


「勉強も、親も、友達も、時間も、人の汚なさもなにも関係のない世界に行けたらどんなに良いんでしょうか?」


「この虚しさ、辛さ、悲しさもない世界に行けたらどんなに良いんでしょうか?」



 ねぇ。

 どうやったら私は鳥になれるか知っていますか?



 ねぇ。

 どうやったらこの胸の締まるような感覚を消せるか知っていますか?



 ねぇ。





 ねぇ。




 あぁ、分かりました。


そう最後に言った彼女は、空へと落ちていった。







(誰か私に翼を下さい)

(090310)


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