――どこを見ているの?



 幼い時のことだ。
 ある日、僕はいつも通る道にぽつりと立っている少年を見つけた。

 彼は真っ赤なシャツと、短パンを着ていた。そして、道路の端に座りこみ、視点の合わない目でどこかを見つめていた。


 僕は彼を見て何と思ったのか、気味悪く思ったのか、彼を見なかったふりをし通りすぎた。



 次の日、僕がまたこの道を通ると彼が昨日のように座っていた。

 その格好ばかりか、服装まで全く同じだった。


 その日も僕は、彼の視点の合わない目を見て気味悪く思ったのだろう。見てない、見てない、と小さな声で連呼しながら通りすぎていった。



 次の日も、また次の日も彼はそこに視点の合わない目で座っていた。


 何であの男の子は服が変わらないんだろう?

 何であの男の子は毎日ここにいるんだろう?

 あの男の子はどこを見ているのだろう? ある日、僕の中で好奇心が勝った。子供特有のものだろうか。僕は一度思った疑問の答えをどうしても知りたくなった。



 家を出て右に曲がる。左右を塀に囲まれて彼のいる道路はある。


 道路の端に今日もまた彼は座っていた。始めて見た時と同じ真っ赤なシャツと短パンを着て、視点の合わない目でどこかを見ていた。



「どこを見ているの?」

 僕は彼の前に立ち話かける。
 不思議なことに今まで感じていた気味の悪い恐怖感はなかった。


 ただ、自分の持った疑問の答えを知りたいというワクワクした気持ちだけだった。


 彼は、ぴくりと動き僕の方に顔をあげた。

 そのとき僕は初めて彼が動くのを見た。

 まるで操り人形のような動きだった。

 本当に人間なのかと思ってしまうほど不自然で、機械的な動きにまた恐怖を抱いたのだろう。僕は今まであった高揚感が冷えていくように感じた。


 彼はまた視線をどこかに戻した。そして今までと同じ格好で動かなくなった。

 僕は走ってその場から逃げ出した。


 怖くなったのだろか。 それとも彼が何なのかを気づいたのか。

 ただ、がむしゃらに走り帰路についた。





 その後のことはよく覚えていない。気づいたら僕はベットの中にいた。



 真っ白な部屋。清潔なシーツ。心配する両親の瞳。ここが自分の部屋ではないことは明らかだった。



 僕は話した。

 今まで見たことを。

 彼のことを。

 今日感じたこの恐怖を。

 両親や病院の先生は黙ってそれを聞いてくれた。


 そして最後には「大丈夫」だよと言い頭を撫でてくれた。僕はその日ゆっくりと眠ることができた。




 次の日。

 目が覚めると昨日よりも真っ白な何も無い部屋に閉じ込められていた。









「ここで、僕の記憶は終わりです」


 だから、この部屋から出して下さい。









(090319)
ちょっと、挑戦


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