ヤマザキ春のザキだらけ祭り | ナノ
馬鹿みてーに真っ直ぐなお前とクソみてーに屈折した俺(後編)[2/2]
「どうも、水戸っす。あっ違った山崎」
『山崎くん!?外でて大丈夫な、あっちょっと待って今行くから』
インターホン越しに聞く声はいつもより少し高く聞こえて、けどお互い「あっ」とか「ちょっと」とか挟まなきゃ会話できねぇのはいつも通りで少し笑える。こうしてリラックスできてんのは多分やっぱ土方のおかげで、でもだからってそれを本人に言う気はやはりないのだけれど。

「今日は、なまえに言いたいことがあってきた」
「言いたいこと…?」
「それに対して、えー…っと、なまえはなまえなりに言いたいこと腹立つことムカつくこと、ってあれこれ一緒か、まあとにかくなんか言いたくなると思う。けど。…頼む、口挟まねぇでとりあえず最後まで聞いてほしい」
「……。うん」
「俺やっぱ、付き合うとかよくわかんねぇ。お前の為に何をしてやればいいのかとか、どう振る舞っていいのかとか。今だってこんなだしよ…この一ヶ月間彼氏らしいことなんもしてねぇなって」
ずっとずっと、考えていたことだった。
今までの付き合いを振り返って考えると手を繋ぐとか触れるとかもうそれ以前の問題だと思っていた。なまえは笑ってるけど本当に喜んでんのかなって、本当はもっとして欲しいことがあんじゃねぇのかなって。もっというならそもそもこいつは俺に何を求めてるんだろうって。それがわからねぇもんだからあれやこれやと試行錯誤してみて、けどやっぱよくわかんなくて、じゃあ次はどうしようかってその繰り返しで。
だから最初のうちは、もしや俺には「人と付き合う資格」なんてまだねぇんじゃねぇだろうかってそんなことまで考えてみたりして。
だけど。

「ずっとそう思ってた。だからなまえも、いつまで経っても『山崎くん』なんだって、どっかでわかってた。不甲斐なくて悪い」
「っ…」
「けど!なまえが喜んでくれたら嬉しいし笑った顔見れたらいいなってデートの前の日とかそれ考えてんだけで楽しくて!本当なんだよ!それに俺等のこと悪くいうやつはムカつくし、その、お前でエロ…変な想像してる奴はぜってぇ許さねェし!ふざけんなぶっ殺す!って、なっちまう、し…」
「…ん…」
家帰りゃそりゃそんなことばっかりで頭いっぱいになっちまうけど、それでもやっぱ一緒にいるときは楽しいばかりで。あーあー今日も帰ったら反省会だろうなっておそらく失敗ばかりのデート中、そんなんも一瞬どころかほぼほぼ吹っ飛ぶくらいには楽しくて。だから学校行くと余計俺等の組み合わせってそんなにおかしいかよとかふざけんなテメェに言われる筋合いねぇよとかそんなことばっかりで。
けどとどのつまり俺は男で、お前は女で。どっちが弱ェかというとそりゃお前だから。

こんなこと裏で言われてるって知ったら、なまえがどう思うか。

それも全部全部俺の所為なんだけどよ、それもわかった上でよ。そんな俺で、いや俺がいいって言ってくれたお前のこと思ったら、って。

「つまりよ、その、何言いたいかっつーとよォ……」
気づいたら殴ってた。殺してやろうと思った。実は腕力も大したことねぇし喧嘩もどちらかというと作戦勝ちが多め、そんな俺がたったの一人でいくら喧嘩慣れしていなさそうとはいえ五人相手に脇目もふらずに立ち向かったのは結局お前を好きになっちまったからだ。愛してたんだよいつの間にか。そうだ、俺なまえのこと好きなんだよ、って、まるでそれですべての辻褄が合ったというふうにいままさに認めた。

…と。いうのを、俺はさっきまで土方と話していたテンションでそのまま伝えてしまった。

「大好きです、今度は嘘じゃないっす」
ここにきてパクリィィィ!!!!????あの大大大名作漫画をパクリィィィィィ!!!!!????と我ながら引いた。これなまえのほうこそ、いやそこまでではさすがにないだろうけど百年の恋も冷めるってこういう状況なのではと戦々恐々とし。

「……っつーこと、なんだけ、どっ!?」
とりあえずこれで話は終わりなのでどうぞご断罪下さいと言わんばかりに言うものの想像とは裏腹まさかのタックル。最初のうちは「あれもしかしてこの子スラムダ○ク知らない?」と別の意味で戦々恐々としたものの。

毎朝校門前でやられるのとは違う。いつもならタックルが来て、そんで俺がなんだよって振り向くとこいつはいつもにへっと緩く笑ってみせて。声に出さないありがとうがそこにあったはずなのに、今はない。
そこには笑顔の代わりになまえの涙があった。大きな瞳から次々に流れる涙が俺のジャケットに染みていく。

「そん、なのっ…私だって、同じ、だよ…ぉ」
「えっあっそうな、だってあれ、がっかり、とか…だってお前、」
「がっかりなんてする訳ないでしょ!?私はいつだって、嬉しいことばっかり山崎くんにもらってて、いつも楽しいばっかりで…だから、」
ずっとずっと怖かった。「やっぱり違ったわ」で終わるのが怖くて、必死に俺の顔色ばかり伺っていたとなまえは言った。けど俺にはそれが信じられなかった。
あんなに笑ってたじゃねーかって、楽しそうだったじゃねーかって。俺って奴はこの期に及んでもそんなことばっかりで。そんなやっぱり不甲斐ない俺になまえが鉄槌を下す。

「なんで?なんで吃驚してるの」
「だってそりゃ、」
「私が山崎くんのこと好きだって知ってるのに。知ってる癖に。なんで吃驚するの?狡いよ」
知ってた、聞いてた、覚えてる、ちゃんと。
けど。

「あんなこと言ったの山崎くんが初めてだよ。相手が山崎くんだったから言ったんだよ。今までも好きな人とか、憧れた人も人並みにいたと思ってた。けど知っちゃったからかな?今までの全部幻想だった、恋に恋してただけだったんだ、って、山崎くんに出会って初めてわかったよ。私」
俺だって怖かったんだよ、いつ心変わりされるかって、いつの間にかそんなことばかり考えるようになっていたんだ。なまえのおかげで初めてわかったんだって、言いたいのに言わなきゃいけない場面の筈と頭ではわかってんのに。

「だからね。山崎くんが喧嘩で停学、それも私の所為って聞いて…。ごめんなんだけど、うんごめん、でも私嬉しかった。山崎くんのこと好きになって私良かったなあって、幸せだなって」
「俺、だって…俺だって!だから!好きだって言って」
「けど私のほうが好きだし!それは譲んないし!」
「いやんだよそれ!?」
「だからそのっ…とにかく、私も何言ってるか自分でよくわかんないけど、」
涙をぼろぼろ流してみっともない顔で、けどとにかく必死だってのがもうこれまでにないくらいに伝わって、あれこれなんだろう、なんだかよくわかんないけど、なまえが今何を言いたいか、何を俺に伝えたいかなぜかわかった気がして。相手は女だとか加減とか何も考えず、力の限りぎゅっと抱きしめるしかなくて。

「これからも付き合ってく、ってことでいいんだな!?」
「っ、はい!」
「ちなみに!愛は逆転したからな俺のほうがお前のことぜってー好きだから!バスケとかやってる余裕ねぇくらい好きだからなうざくても知らねェぞ責任とれよ!?」
「えっバスケ!?バスケってなに山崎くんバスケ部じゃなくな、」
「要は水戸くんじゃねーの!クソ質の悪ィバスケを知る前の花道なの!今の俺!!知る前に春に出会ってしまったの!!」
あの名作スラム○ンクですら描かれなかったキスシーンをまさかこの俺がしようとは。先月土方ん家で飲んでた俺には想像もできまいドアホウ。

「や、まざき…」
「…『退』。…あふたーみー?」
「さ……さ…が…」
女っつーのはやっぱよくわかんねぇ。
名前で呼ぶほうがキスよりハードル高ぇとか、まじで全く意味がわかんねぇ、けど。

ある意味彩ちゃんより強い、ちなみに晴子ちゃんこり断然可愛くて、んでもって藤井ちゃん(?だっけ)より慎ましやかで健気ななまえが。

「やっぱ大好きです今度も嘘じゃないっす!!」
「だからそれ何なの!?」
初めて見たとこよりずっとずっと可愛く見えてきてしまったんで、とりあえずスラムダ○ク読ませて、まあゆくゆくは俺色に染まらせようかな、なんて。そういうふうにお互い付き合っていけたらいいのかもしれないと思ってしまったんだ。まさかこの俺が。

fin20170325
(文:くらげ お題:Umi様)
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