Scar Tissue | ナノ
02Fool



*山崎視点

 なまえちゃんってもしかして俺に惚れてんじゃないの監察日記二日目、昨夜全く眠れなかったせいで目の下が真っ黒な俺を心配してくれる。副長にいって有給とらせてもらいますよと眉を下げる彼女をなんとか諌めて、半休ということで手を打ってもらった。なまえちゃんはいささか不服そうだったが最後には折れてくれ任務に赴き、当の俺はというと布団の中でぬくぬくと状況を整理していた。
 今朝、普段どおり俺を起こしに来てくれたなまえちゃんは前述の通り俺の顔色をひどく心配してくれた。ここ最近では珍しく長い滞在時間だったように思う。少し前まで寝ぼけ眼の俺に今日のスケジュールはどうのと確認してくれるのに少なくとも十分は要していたはずだが、避けられ始めてからは二分とこの場にいなかった。……沖田隊長のいうことが正しいならこんなこと思うのは彼女にとって酷でしかないとわかっているが、俺はそれが無性に寂しかった。にこにこと口角を上げて俺に「おはようございます」というなまえちゃんをこの先一生見れないのかと思うと、身から出た錆とはいえ心苦しかった。

「邪魔するぞ」
「ギャッ副長」
 珍しく人が真剣にものを考えているというのに、この人はノックもなしに全く遠慮がない。なんの用かと問うと、副長は俺の顔色を一瞥してからこともなげに言い放つ。

「万事屋の張り込み、みょうじに行かせたからな」
「……は?え、なにをしてくれてんですか」
「本来なら今日あいつは非番だ。『山崎さんの分働かせてください』だとよ」
 やれやれ健気なこったね、と嫌味ったらしくいうこの人も、なまえちゃんが俺を好いていると思っている一人なのだろう。じゃあなぜそんなひどいことができるのだろう、俺が言えたことじゃないので口には出せないが、視線で訴えた。
 みょうじなまえちゃんは俺の優秀な部下だ。たとえ俺になにかあっても監察として生きていける術を叩き込んだつもりだし、もしそうなった場合彼女こそ次期監察方筆頭に相応しい。そうなるよう俺の全てを彼女に与えた。

「監察は観察が鉄則じゃなかったのか」
 副長の言葉にハッとする。全く世話ねェなと独り言ちるのを聞いて、全くその通りだと自分が恥ずかしくなった。


 土方さんのいうとおり結局その日はなまえちゃんに代わってもらう形となり非番となった。深夜0時を回ったがなまえちゃんはまだ副長命令で張り込み中だろう、別に浮気したわけでもないのになんとなく肩身が狭い。
 たまさんに惹かれたのは嘘ではない、けど無理矢理見合いの席をセッティングしたのは沖田隊長であって俺は行動に移す気などさらさらなかった。いや、幸せな時間を過ごせたことには違いないけれど。

『山崎さん』
『山崎さん、土田組の隠し通路の地図できました』
『お手柄ですか?山崎さん』
『席とっときましたよ、山崎さん』
『山崎さん、すごいです』
 思い返す彼女はどれも笑顔で俺についてきてくれていた。褒めれば小さな子どものように目を輝かせ、滅多になかったが危ないことをして叱ったときはガーンという効果音が聞こえそうな勢いで落ち込んでいたっけ。

『山崎さん、だめ、今病院に。必ず助けます』
『なまえ、ちゃ……?』
『伊東は必ず粛清します。安心して療養してくださいね。教わることがまだまだあります』
 あの笑顔を、尻尾振ってる子犬みたいに報告にくる部下を傷つけてしまったかもしれないという事実が今の俺にはどうにも辛くて、動かずにはいられなかった。俺なんかのどこがいいのか、全くもってわからないけれど、尊敬にしろ好意にしろ、上司として山崎退というひとりの男として。
 彼女に避けられたままは嫌だという気持ちが先走って、気づけば俺は夜のかぶき町を駆けていた。


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