Scar Tissue | ナノ
09 misunderstanding



*山崎視点

あれからおよそ二ヶ月が経ったころ、そして俺たちがミニスカポリスに明け暮れていた頃、なまえちゃんは局長と副長にのみ報告して黒服を辞めていた。直属の上司だというのに何も聞かされていなかった俺は当然気落ちした、それはもう。

「な、なんだーザキ、久しぶりに飲みにでも行くか?ほらお登勢さんのとことか」
すっかり様子のおかしい元ゴリラの美女にまで気を遣われるほどである。たまさんに会いに行こー!とそのまま数名で連れ立ってかぶき町へと歩を進める。この後訪れる急展開など想像もせずにだ。


「あらいらっしゃい、あんたら随分儲かってるみたいじゃないか」
「早ク注文シロヨーナルベク高ぇヤツな!」
そういって出迎えてくれたスナックお登勢の面々は相変わらず陽気な様子で少しだけだが心が晴れる。皆が次々注文していくのに続いて俺は生ビールを頼んだ。お通しの白和えをちびちびつまみながら、皆が今日も疲れたあのクソ客よォ太もも触りやがったなどという愚痴を聞く。ただこの白和えおいしいなあと思いつつも、考えるのはなまえちゃんのことばかりだった。

『お登勢さんの出汁巻美味しいんですよ本当に、あー、あと卯の花』
いつだったか、この身体になってから彼女が聞き慣れぬ低音ボイスでそういっていたのを思い出す。もし今作れそうなら頼んでみようかな、そう思って口を開いたはずだった。

「なまえちゃんは最近こちらに来てますか?」
つい、本当に自分でも驚くくらい滑らかにそう聞いていた。すると彼女らは一瞬目を見開いてから、呆れたようにため息をついてみせる。

「いやいや、そんな状況じゃないだろうに。あんた直属の上司って聞いてたけどまさか何も知らないのかい?」
お登勢さんがそういうと、局長と副長が気まずそうに顔を見合わせるのが視界の端に映った。

要約するとこう。
なまえちゃんは今現在ほとんど屯所に一人で引きこもっていること。たまに現れる野次馬を蹴散らしたり、明らかな敵意を向けてくる浪士どもを都度追い返していること。たまにお登勢さんたちや万事屋の面々、その他この騒動で仲良くなったらしいもと女子組の差し入れを喜んだり、一緒に薙ぎ倒していること。要は一人で屯所を守っているらしいとのことだった。
たまに向こうに戻って掃除してるくらいは聞いていたし何度か手伝ったこともあったが、なぜ教えてくれなかったと局長副長両名に抗議の視線を向けるとやはり二人はバツが悪そうに視線を彷徨わせるだけだ。
そんな嫌な沈黙を破ったのは。

「私も先日お会いしましたよ」
店屋物を届けに参りに。そういいながら俺たち全員にたまさんは次々と飲み物やつまみを渡していく。

「あ、たまさん……っ!あ、えっとその、元気そうでした?」
「ええ、健康体の方のデータと照合もしましたがとてもお元気そうでした」
「そっか……良かった」
たまさんの穏やかな笑顔を目にしながらほっと胸を撫で下ろす。そうだ、今度俺も様子を見に行ってみよう。ついでに何か手伝えることはないか聞いてみよう、そんなふうに考えていた矢先だった。

「あ……ですが私のデータはあまり当てにならないかもしれません」
「あ?どういうことだ」
「少し前なまえ様、十兵衛様とご一緒する機会があったのですが、そのときに」
みょうじなまえは山崎退のことなど好きではない。上司として尊敬しているだけで、それは他の皆に対しても同じ。彼女はたまさんにそういったという。そしてそのとき心拍や呼吸の乱れもなかったことから『恋』に関するデータを書き換えたのだとたまさんは淡々と語った。

「なぜそんな勘違いをしたのか私自身定かではありませんが、もしお会いする機会がありましたらたまが謝罪していたとお伝え下さい」
そういってから深々と頭を下げて、たまさんはカウンターへと戻っていく。俺の唇はわなわなと震えていた。

「誰でしたっけなまえちゃんが俺のこと好きとか言い出したの」
「……」
「更には散々死ねやら殺すやらいったよな、なあ原田コラ」
「ヒッ」
「殴る蹴るしたやつもいたよなァ!?」
「アァァァ!!ごめんて!ザキごめん!!!でも今か弱い女の子だから!!」
「うるせェ知らねェよ!!」
ギャーギャーわいわいと、こうしてかぶき町の夜は更けていく。まあ俺はブチ切れてるけども。ただこの身体になってからこんなバカ騒ぎすんのは初めてで、しかもなまえちゃんを傷つけてたわけじゃなかったというのも相まって、正直めちゃくちゃ楽しんでしまったのも事実で。

「おいテメェら!凸凹教の在り処がわかったぞ!!」
旦那もとい現銀子さんがこの場に乗り込んでくるまでそのどんちゃん騒ぎは続いた。そして一瞬全員顔を見合わせてから、歓声……否黄色い声がスナックお登勢を包み込む。やったぞこれでカミさんのところに胸張って帰れると涙する者もいれば、愛しのあの子(キャバ嬢)にやっと会いに行けるとはしゃぐものもいた。でもそのほとんどが有頂天だった。

たまさんのこの一言が発されるまでは。

「あぁ、でもなまえ様はお慕いしている殿方が他にいらっしゃるらしく。しかし既にフラれたとのことです」
「……アァ????」
奇しくもマン選組、いや真選組一同一瞬で真顔になり、誰だそいつぶっ殺してやると怒号が飛び交ったのはいうまでもない。


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