Scar Tissue | ナノ
07 don'tstop thinking



*夢主視点

 かくして男性陣、もとい私たち元女性陣の活躍により凸凹教の脅威は地球から去った。特別戒厳令も無事解かれ、かぶき町は平和を取り戻したのだ。
 ……一部を除いて。

「いや俺らも戻せやァァァ!?」
「凸凹!!戻ってこいしばくぞコラァ!!」
 性転換を解除されぬまま残された見慣れた面々は、各々激昂したり呆然としたり様々な反応を示している。

「我こそが天下無双の英傑よ!」
 あるいは未だノリに乗っている者もいた。しかしこれもある種の防衛反応かもしれないと思うと、胸が痛んだ。なぜなら私はこの中でおそらくただ一人、この状況に喜びを感じていたからだ。

 山崎さんは異性愛者で今は女で、私は男。そしてたまさんは女。機械家政婦に性別があるかどうかわからないが、少なくとも見た目はそうだ。
 これなら、この状況なら彼女から山崎さんを奪えるのではないか?そんな打算的な企みが頭を過ぎらなかったといえば嘘になる。振り返った先、青ざめながら空を仰ぐ元男の上司に向かって、声が弾まないよう気をつけながら言い放った。

「とりあえず屯所に戻りましょう山崎さん、皆さんも。私がお守りします」
「……なまえちゃん……」
「真選組に恨みを持つ輩も多いはず。浪士共が聞きつける前にとりあえずこの場を立ち去りましょう」
 口ではもっともらしいことを紡ぎながら、これであの完全無欠な、容姿端麗で非の打ち所のないあの機械家政婦から、山崎さんを奪われずに済むのだと本気で思ってしまった。我ながら嫌気のさす性悪女、いや、今は男である。



 それから世界は、まるで何事もなかったかのように回っていった。いや、以前よりずっと円滑に回っていた、といったほうが正しいだろう。

「Sっ娘倶楽部のドS太夫の花魁道中だってよ!見に行こうぜー!」
 元真選組の元男連中は沖田隊長を筆頭に、性を超えて尚それなりに今を楽しくときにこずるく生きているようだった。銀さんたちも元気にやっているようだと風の噂で聞いたし、元女の忍も、吉原の連中も男としての新しい道を歩んでいるらしい。

「あ、なまえちゃんなまえちゃーん!ちょっと厄介なお客様がいてえ」
「わかりました退子さん、何番テーブルですか?」
 私もそれなりに、うまくやっていた。なのにこの虚しさはなんだろうと、胸の奥にモヤモヤを抱えながら。

「いやーだからさ、最初っからいってんじゃん俺はブス専なの!こんな可愛い子付けられてもテンション上がんねえよ」
「申し訳ございませんお客様。今代わりの女の子が支度中ですので、もうしばしお待ちください」
 何をしてでも金を稼ぐと決めたあの頃、水商売だけは危ないこともあるからやめておけと和尚からいわれていた。性を搾取される側になるのがどれだけ危険なことかと口が酸っぱくなるほど。それがまさかその嬢達を守る立場、屈強な黒服になることとは思ってもみなかった。

「きゃーみょうじさん毅然としててかっこいいー!」
 かつての上司や先輩方がこんなふうに自分に黄色い歓声を上げるとももちろん思ってはいなかったが。

「X子ちゃんです。滅多に見ないほどの醜女のデブです」
「んだとテメェコラみょうじ逮捕したろか!……じゃなくて。どうもX子でぇーす」
「おーいいねいいねェ、めっちゃ好み」
 ……こんな上司の姿も見たくなかったが、それはさておき。

「すみません、なまえさん、ご指名です」
「……はあ?黒服を指名ってなんです」
 元原田さんだったなにかの声に訝しげに振り向くと、そこには見知った顔が男らしく背筋を伸ばして佇んでいた。ご丁寧に元モブ隊士、現賑やかし役の嬢を人質としながら。

「九兵衛さん。生憎当店の指名システムは女の子たちだけで」
「店外ならだめか?なに報酬ははずむ」
 同じ穴の狢だろう?と笑う九兵衛さんは、数ヶ月前に見たときに比べなんだか悲しそうな笑顔で、それを見た私は黙ってついていくほかなかった。



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