Scar Tissue | ナノ
06change



*山崎視点

「んでテメェがみょうじを担いで帰ってきやがんだ!説明しろォ!!」
「あーあーそんな大声出さなくても聞こえてるっつーの、朝っぱらからうるせェなオイ」
「うるさくさせてんのお前!!」
監察日記三日目、副長がキレ散らかすのも無理はない。まず第一に彼女は俺の代わりに旦那の監視を任務としていて与えられていたわけで、なのにぐでんぐでんに酔っ払ってその監視対象に抱えられて朝帰り して来たわけで。「手は出してねぇよ?俺こう見えて紳士だし」「んなこた聞いてねェんだよ!」……うん、副長の怒りは最もだと思う。そして。

「おい山崎どうなってんだゴラァ!!」
「ヒィィィィ」
 その上司である俺に矛先が向くのも当たり前だ。


 ひとしきり副長と俺の鬼ごっこが続いた後、旦那はなまえちゃんを優しく彼女の自室の布団に寝かせた。その様子は普段の旦那からは想像つかないほど丁重で、先程の『手は出してない』を訝しんだのはその場にいた隊士皆の思いだったと思う。俺含め、自分が言えた義理ではないと歯ぎしりしながらその様子を眺めてしまっていたのだが、旦那はなにもかも分かっているかのように鼻で笑って。

「心配すんな、先っちょだけだから」
「ハァァァァァ!!?!」
 原田を筆頭に屈強な隊士共の怒号を背に、旦那は飄々と去っていく。俺はというと呆然とその場に立ち尽くすだけだった。
みょうじなまえちゃんは可愛い俺の部下だ。そして俺はたまさんに少なからず思いを寄せていて、なまえちゃんのほうも誰と何をしようが、成人済みなのだから本人の自由だ。
……なのに、この胸の痛みはなんなのか。

 先っちょとはどこの先っちょだったのか、俺が知ることになるのはもう少し先、まさかの凸凹教を迎え撃っていた最中である。この物語は、隊士達の罵詈雑言を背にべっと舌を出していたらしい旦那を後方から眺めていた俺には想像もつかない結末を迎えることとなる。



「腑抜けた男共に用はねェ、本物の男だけついてきな」
 監察日記〇〇日目、本人の意思とは関係なく性転換された面々に向かって、月詠さん、いや月雄さんは威風堂々といってのけた。姿のみならず実力も完全に備わった彼に誰も苦言を呈することは叶わず、ただただ気まずい思いでその姿を見上げていた。元男、現『腑抜けた男共』の俺達には何も出来なかったのだ。元女性陣はそんなこと気にも留めていないだろう。

「山崎さん!お怪我はありませんか」
 俺の記憶より屈強でイケメンで、イケメンでイケメンで久方ぶりにきちんと目を見て話してくれるなまえちゃんもそのはずだ。元から女性としては背が高い方だったが、ここまで育つか。

「……山崎さん?」
「あ、あっいやごめん!大丈夫だから!」
 なら良かったとクナイの刺さった監視カメラを地面に叩きつける彼女は、動作とは相反して心底安心した顔をしている。ここまで別行動で男女逆転した姿をお互い視認したのはこれが初めてだった。きっと本気で俺を案じて、監視カメラを潰しつつ探しに来てくれたのだろう。

「なんでも地下に奴らのアジトがあるのだとか。私たちが潰してきます。安心してください」
 強い男が弱い女を守るのは当たり前のことで、なんの前触れもなくそれを享受する側に回っただけ。そう頭ではわかっているのに、これもなまえちゃんの本心からの行動なのだろうかと、何も分からず頷くことしかできなかった。きみより弱いのなんて、前から変わらないのに。



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