Scar Tissue | ナノ
05drop by



 *夢主視点

「はー、なるほどねえ」
 ぐでんぐでんの私の話を最後まで黙って聞いてくれていた万事屋の旦那、もとい銀さんが呆れたように顎を掻いて見せる。入れっぱなしのカラオケ曲をBGMに、気まずい沈黙が私達を包み込んでいた。勝手に惚れて期待して、依存して、突如現れた女の影に狼狽する醜い存在。客観的に見ても鬱陶しすぎる。ただそれでも、今まで誰にも打ち明けられなかったこの恋の顛末を吐露したことで不思議な開放感もあった。

「銀さん」
「んー?どした」
 私の肩を抱きつつゆらゆらと船を漕いでいるところをみると銀さんもまた私に負けないくらい酔っているようだった。判断力の鈍った酔っ払いが密室で二人きり、なにもない訳がなく。あの人よりもずっと逞しい肩にすり寄って、全てを投げ出して甘えたい気分だった。銀さんも最初こそ慌てたように「ちょ、なまえちゃん?」などといっていたが、男性とは正直である。
 室内に流れるシティー○ンターのOPそっちのけで銀さんの銀さんはしっかり己を主張していた。副長に教わった監察としての心得の一つ、使えるものは何でも使え。そういわれたというとあのときの山崎さんは自分のことのように怒ってくれたが、今ならどうだろう。監察日記をたまさんで埋め尽くすくらい熱を上げているようだから気にしないか、多分。

「いやいやいやちょっと!銀さんやぶさかではないけど、ここではまずいよ!?然るべきとこでしましょうねそういうのは!」
 うまく回らない頭でベルトをかちゃかちゃしているとやっと我に返ったらしい銀さんが抗議の声をあげる。然るべきところならいいんだなと納得し素直に離れた。そして改めてお願いすることにする。

「万事屋銀さん、依頼があります」
「……おう……?」
「私の処女膜ぶち破ってくれませんか」
そういうと銀さんは漫画みたいに口に含んだ焼酎の水割りを吹き出して、信じられないこの女といったふうな顔でこちらを見やる。うん、私自身何言ってんだろうと思う。けど、いずれ誰かにぶち破ってもらおうと思っていたのは本当なのでいい機会だしくらいにしかこちらは思っていなかった。監察として、山崎さんの部下として真選組女隊士として役立つには色仕掛けもできたほうがいい。経験のない私をそういった任務につかせないよう裏で山崎さんが色々していたのは知っている。上から「女を使えばいいだろう」と言われることが多々あって、その度あの気弱な山崎さんが私のために抗議してくれたと、幾数人から聞かされたこともある。

「初めてってどんだけ痛いんでしょう?銀さんならいいですよ私」
 私は、山崎さんの「一番」になれなかった。あの人に選ばれなかった。選んでもらえなかった。ならせめて「優秀な部下」として役に立ちたいと、その気持ちだけは本物だ。万事屋の旦那、銀さんは今日一日観察しただけだが悪い人ではない。と思う。少なくともクソ浪士の爺どもにぶち破られるよりマシだ。そう思って、ううんただの勢いなのだけど。

「山崎さん以外、誰にぶち破られても一緒だもん」
 カラオケルームの狭い室内で銀さんの上に跨がりながら、依頼とは名ばかりの懇願を口にする。しかし口づけなどをする度胸はない。痛いのも嫌だ、山崎さんのためならなんでもすると口ではいっても、未知の世界は怖かった。そんな私の心情を知ってか知らずか、銀さんは私の手の震えが収まるまで黙ってそばにいてくれた。

「慣れないことすんじゃねェよ」
 至極真っ当なことをいう彼に、私はなんと返していいかわからなかった。なにもなかったというふうに抱き起こしてくれる銀さんにただ身を委ね、最初で最後の本音を吐き出すようにいった。

「たまさん、素敵な女性ですね」
 まぎれもない本音、正真正銘の吐露。だからこそ、苦しかった。

「美人で、優しくて、気配りもできて、山崎さんは見る目があるなぁ」
 どうみたって完璧なのに、それなのに、「なんで機械なんかに」と思ってしまったのも事実で、自身の醜い心中に吐き気がした。あんな素敵な人を、機械だからなんだというんだ、どうかしている。 そう頭では理解できるのに、嫉妬心が勝つくらいには人間としての心がまだ私にも残っているんだろう。入れるだけ入れたジャンプアニメの音源が未だ室内に流れる中、ぽろぽろ零れる涙を止められなかった。

「……よくわかんねえけどよ。お前も充分いい女だと思うぜ」
 すごいよマ〇ルさんをBGMに、銀さんは「これで勘弁してくれ」と言わんばかりの苦笑いで私の額に一つキスを落とした。初めて他人に女として見られたような嬉しさが込み上げて、また少し泣いた。ついでに二人で追加で数曲歌ってから店を出る。

 次会った時は今度こそ処女膜ぶち破ってくださいね。報酬は弾みますのでと酔っぱらいの勢いそのままにいうと、銀さんはまた困ったように笑う。
 その後朝方屯所に担ぎ込まれ、銀さんと私があらぬ噂をたてられたのはまた別の話。


- 5/9 -

|
Back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -