助けに来た伊作
の段


私と伊作先輩は"トイペ"に手をかけた。
そのとたん…!



急速に陰る空、
遠雷の響き。

「くっ…嗅ぎつけたか」
「えっ?」
「不運がッ不運が来るッ!!君の臭いを嗅ぎつけたんだ!」
「えっ!?」
「早く登るんだ乱太郎君!この綱は水に激弱なんだ。雨が降ったら一秒ももたないんだよ!!」

なんだって---!
何か引っかかるが今はそれどころではない。
急げ!急げ!
空にはドス黒い雲。
登れ!登れ!
あと少しもう少し…

「やった!!」

まず私が登りきった。
とうとう脱出成功だ!
続いて伊作先輩が綱を登り始めた。

ブチン

「えっ?」

伊作先輩の手は濡れていたのだ。で。

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…!!

「うわあああ先輩ッ伊作先輩ッ」

怒涛の雨の中、私は穴に向かって叫んだ。
先輩が登ろうとしているのか、バシャバシャと音がする。
バシャバシャ!?
いつの間にか地面には雨が溜まり、どんどん穴に流れこんでいるのだ!

ジワジワと水は溜まり続け、とうとう先輩は腰まで水に浸かってしまった。
だが雨は容赦なく、
私はなすすべもない。
このままじゃ、先輩が溺れてしまうというのに!

「…乱太郎君、ここから離れるんだ!」
「でも」
「君は不運小僧だろう?また落ちたらどうする…助けを、誰か助けを呼んで来てくれ」

「…わかり、ました!」

だが!

ゴロゴロドシャーン!!

「ひゃわあああッ!!」

さらに雨は激しくなったのだ!
もう前を見るどころか歩くのも難しいゲリラ豪雨…

背後で滝の様な音がする。
「ああ…」

水煙をあげて、大量の水が穴に注ぎ込んでいるのだ…

「あああ…先輩…」

もはや返事は聞こえない。

「伊作先ぱああい!!!」

ドッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア






どれぐらいたっただろう。
雨のやんだ空を眺めながら、私達はへたり込んでいた。

「いや〜、死ぬかと思ったよ」

「そうですね」
「穴の水があんなに早くいっぱいになるなんてね」
「先輩、押し出されて来ましたね。何だか私、詰まったトイレ思い出しました。」
「これはひどい。おや、」
「虹ですね…」
「帰ろうか」
「ハイ!」



こうして私達は、めでたく忍術学園に戻ったのだった。

途中、伊作先輩の血を嗅ぎつけて来た飢餓状態の羆(クマ)に追い回され、穴や雨とは比べものにならない恐ろしい思いをしたけれど、
それを言うと伊作先輩が奇声を上げて気を失ってしまうので、その話はもうしないんだ。

めでたし
めでたし

〜終わり〜



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