「赤河童様、お帰りなさいませ」
山の見回りから帰った赤河童を、玄関先で待って居たイタクが出迎える。
そして、ふと赤河童の腕で苦しそうに眠る鯉乙に気づき、怪訝そうな表情を浮かべた。
赤河童はそれに気付くも、反応はせずにイタクに被っていたわら帽子を持たせる。そして、未だ眠る鯉乙を見つめるイタクに赤河童は声をかけた。
「イタク、奥に座敷が空いて居たな。そこに布団を敷いてこやつを寝かせてやってくれや」
それに驚いたように顔を強張らせたが、赤河童の「まだ子供だ」という言葉で仕方なく鯉乙を受け取る。
「わしは、この後会議じゃ。暫くは見れんから、目を覚ましたら少し話し相手にでもなってやれ。頼むぞ」
「はい」
そう言った赤河童は、ギシギシと床を鳴らし、大広間へと向かって行った。
暫くイタクはその後ろ姿に頭を下げていたが、その後、唐突に鯉乙に違和感を覚えた。
――――ひどく、軽ぇな……。
子供だとしても、腕に乗る鯉乙の体重は、年齢と身長にあっていないように感じる。まるで、赤ん坊を抱いているような感覚に陥ってしまう。
しかし、よく見れば、ブカブカな着物の裾から出る手足はひどく痩せ細っているように感じる。ものをろくに食べていないと思いざるを得ない。
(どんな生活してきたんだ? こいつは……)
いくら冬で雪がもう降りそうだと言っても、ここまで痩せ細るほど、遠野は何もない訳ではない。
そこらの古民家にいけば、残飯などに手をつけられるし、木ノ実や雑草なども殆ど食べれるものばかりだ。なのに、何故……。
「……」
ここで考えても仕方がない、と思ったイタクは、赤河童が向かった通路とは逆方向の通路へと足を進めた。