原作沿いの状況(6/15)
それは、私の落ち度であった。いや、これはもう本当の運命だろう。
誤って「クロ」と呼んでしまったおかげで、私とクロの間に「仮契約」が成立してしまった。
「クロが説明しなかったのが悪くない?」
「今のオレにお前がクロだって錯覚したのが悪いだろ」
何分か経った頃、その罪の擦り付け合いが始まったのは仕方ないことだろう。もっとも、仮契約から一日も経たずに契約してしまうことは決定したのだが。
はあ、とため息をついて、クロは真琴を見る。
「お前、オレがどんな奴かわかってる?」
ええ、分かってますとも、怠惰の沈黙する終焉(スリーピーアッシュ)殿。
とは言わずに「知らないけど」と口を開く。
────五分後。
「飼われる専門の吸血鬼? だから動物なの?」
洗濯物を取り込む私を見ながら、仮契約をしてしまったクロがポテチを口に含みながら頷いた。
「まー…なんつーか…。契約した主人のみ血を貰ってー…主人の命令にはー…めんどくせーけど従うっつーか…『下僕の吸血鬼(サーヴァンプ)』…ってことで一応呼び名があってー…」
「まあそれはどうでもいいや。今のが契約じゃないんだろ?」
まだ何か続けようとするクロの台詞に自分の声を重ねて無理に自分の都合の良い状況にもっていく。そのお陰で、「最後まで聞けよ…」とクロに嫌な目で見られたが。
これでだらだらしていたら、それこそ時間の無駄だ。取り敢えず、の状況はもってこいなのだから。
「……おう、そうだ。だが、二十四時間俺とお前は一緒にいなきゃなんねーけど……」
「離れたらどうなんの?」
「なんかー、なる」
「それは分かるけど」
離れなきゃいい話だ、と正論を言うクロ。あー、まあ、どうなるか分かるけどさ。と内心了解していても、当然クロの口から聞きたいのは事実だ。
「……じゃあ、今日は中止かー。メールしないと」
「どっか行く予定だったのか?」
「うん、カラオケにー」
この、自分の判断がおかしかったのだ。もし、この判断の原作を、覚えておいていたら。
最悪の事態にはならなかったのに。
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