日向を術中に収めて満足したのか直井がずるずると一人掛けのソファを引き摺って日向が座っているソファの前に置き、日向の脚の上にドカッと脚を乗っけて組んだ。 日向はまだ重曹について語っている。 重曹にそんな用途があったのか、知らなかった……。 「とんだお姫様ね」 「アホなだけですよ」 ゆりが小さな声で呟いた。 いい例えだ。 ゆりは顎に手をやっていて、お前は女家庭教師のようだな。と思って言うのはやめておいた。 「お前みたいな奴はそうしているのがお似合いだ」 「んだとこらぁあっ!」 「うるさい奴だな、今度は何を見習いたいんだ?」 日向が復活したようだ。 また始まったか、と俺はソファに身体を埋める。 「直井くん、パンツ見えてるわよ」 ゆりの言葉に思わず直井を見てしまう。 さっきまで組んでいた足を、いつもの癖なのかわからないが…大きく広げていた。 直井!バカ!自分の格好を考えて行動しろっ。 「お、ホントだ、下着は男もんなんだっいでぇっ!!」 日向が直井のスカートの中を覗き見て、直井が顔のど真ん中に蹴りを入れたのだ。 「失礼……」 それからパッと足を引っ込めて、普通に足を組んだ。 直井が俺以外に謝るとか意外だ。 どうした直井?流石に恥ずかしかったのか? 可愛いな。 ゆりも直井の謝罪が以外だったようだ。 直井をガン見している。 「日向くん、それは蹴られても仕方ないわよ。私だって蹴るもの」 「えっ?あ……ぁあ、わりぃ」 一応謝罪はしているものの、納得のいってなさそうな表情だ。 そりゃあそうだろうな、ゆりは女で直井は男だ。 重みが違うだろう。 「もういい?作戦について発表するわよ?」 やっといつもの空気に戻ったか。 早く今日が終わってくれ。 =================== そんな風に思っていた日も今日に比べればまだマシだと言う物だ。 あれから数日大人しくしていたが、ある日直井はSSSの女生徒の制服を着ていた。 その時に驚いていたのは俺だけで、流石に皆慣れたようだ。 日向は懲りずに直井をからかって催眠術をかけられていた。 入手元を訊くと今度はゆりだそうだ。 ゆり……何故面倒事になると分かっていて貸した? そして今日は……、 カポっと外された帽子の中から出てきたのは猫耳だった。 以前のようなカチューシャではなく、まごうことなき本物の猫の耳が生えていた。 これはやばい。今回のが一番きた。 最初はまた?という雰囲気だったが、俺に声をかけながら直井が猫の耳をピクピクと動かしたのだ。 更に学ランの裾からは長い尻尾が覗いていた。 俺はもちろん近くにいた日向が驚いて、俺は頭が真っ白で直井の言っている事の半分も理解していなかったのだが、その時にピンっと立った尻尾を日向が突っついて、直井が怒った。 今までのよりも素早いというか慌てているというか、日向の手をパンパァアンッと連打で叩き、耳と尻尾の毛を逆立てて怒っていた。 こんな物があったら普通触るだろ。 動きがあるとこんなにも可愛くなるのか……。 ああ、それがわかってたから直井の反応が早かったのかもしれない。 「いってぇ……こいつ引っ掻きやがった……」 「僕に触るな!!」 日向が叩かれた手を撫でさすりながら愚痴た。 「わっ、お前牙もあんじゃん、牙」 次の罵倒を浴びせかけようと開かれた口に日向が素早く手を突っ込み、もう片方の腕を直井の首に絡め動きを封じた。 お前結構戦闘強かったもんな。 それくらい簡単だよな。 けどそれは……。 「いっでぇええ!!!離せ離せっマジで痛いぃいいっ!!」 まぁ直井が口に手を突っ込まれたら咬むだろうな。 「え?牙があるの?」 ぉおっ、いつの間にかゆりがこっちに来ていた。 「わぁ…ほんとだわ、ぶっすり牙が刺さってるわよ日向くん」 ゆりがマジマジと咬み付かれている様を見て、感嘆の声を上げる。 「ゆ、ゆゆゆりっぺ、コレ取って……喰い千切られるっ、いでぇえっ!力込めんなぁっ!!」 今のはコレと言われてムカついたんだろうな。 「骨ゴリゴリ言ってる、マジで痛いって、お、音無ぃいっ!!」 「直井……」 日向の自業自得でもあるが、友人の手がここで無くなるようなグロテスクな所など見たくない。 直井は俺をちらっと見てからしぶしぶ口を離したがそこはもう十分な出来だった。 血まみれで、痛みのせいか指が少し痙攣している。 まぁすぐ治るさ。 「不味い……」 「美味いわけないだろぉおお!?っつうか喰う気だったのか!?本当に食べちゃう気だったのかぁあ!?」 自分を拘束している日向の袖にグイグイと擦り付けて血など拭いている。 「あ、コラ、お前ぇえ!」 物珍しい直井の猫の耳と尻尾が見たいのだろう、今までは興味を示さなかった奴まで直井の周りに集まった。 「うっ」 直井が呻いた。 ゆりが直井の猫耳を触っている。 「ちょっと、やめろっ」 日向は反撃だとでも言わん顔で直井を抑えつける。 その隙にゆりが直井の耳を撫でたのだ。 「あら何よ、制服貸してあげたでしょ」 「んっ、でも、ダメだっ!」 直井の声がなんだか色気があるように思えた。 俺の頭がおかしいからか? 「人間の耳もそのままなのね、耳として機能してるの?」 「ん……してるっ、もういいだろっ!離せぇっ」 嫌がりつつもゆりの質問に答えている。 以前にお前のリーダーだって言って叱った事があったがそれの効果なのだろうか? |