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まさか直井がいるうちにトイレで一人寂しく抜くなんて我ながら情けないな。

ぁあ……やっぱり俺は日向よりおかしいかもしれないな。
あの後も直井は可愛かったな。
「具合……悪いんですか?」
って聞いてきて、俺の心配なんかをしていた。
俺は元気すぎだよ。
お前をおかずに抜くくらいにな。
ユイに言わせれば「要はアホですね!」となるんだろう。


そしてここ最近俺ばかりか直井もおかしい。
避けられてるとかそんなんじゃない。
今の状況は嫌われるよりは断然いいのだが、理由がわからない。
気まずそうにでもされたのなら、やはりこの前のは俺を拒みきれず流されただけで実は嫌だったって事になる。
けど最後には笑ってくれたし、俺の部屋でのんびり風呂に入って帰って言った。
もちろん「おやすみなさい」と丁寧で可愛い挨拶と共にだ。

そしてとりあえず直井は今この校長室にいない。
正直ホッとする。

他の戦線メンバーは日向を覗いてここにいる。
皆それぞれ一様の過ごし方をしているが、ゆりに今日はまだ作戦は言い渡されてはいない。
当のリーダーに向かってユイがガルデモについて何か語っているのはわかるが、詳しく内容を入れる気はない。

日向っ、早く来てくれ。
何かしていないと余計な事ばかり考えてしまうんだ。
嫌、直井は余計ではないんだが、あいつは必要な奴だんだが。
あいつはめちゃくちゃ可愛い奴なんだが。

ガチャリとノブが回されその音に思わず俺はハッと顔を上げた。

「よっ」

日向か、良かった。

「日向くん来たわね、それじゃあ今日の作戦を発表するわ」

まだ直井が来ていないんだが……。
あいつも一応メンバーだろ、生徒会も兼ねているが。
来られても困るがスルーされてもな……。

「音無くん、早くカーテン閉めてよ」
「あっ、わりぃ……」
「なんだぁ、音無どうかしたか?」

日向の声を背中で受けながらカーテンを閉める。

その時バタンと扉が開いた。

「音無さんっ!!コレはどうですかっ!?」

場が一瞬静まり返る。

「皆、カーテン開けて、よく見えないわ」

見たいのか!?
ジャーとカーテンが開かれて部屋に明かりが差す。
俺は直井を見ながら固まっていたので、俺の側にあったカーテンは日向によって開けられた。

そこには制服に身を包み目をキラキラさせて胸の前で手をお願いをするように握り、俺を見つめる直井がいた。
だがその制服はNPCの女子制服と同じもので……。

皆がドッと笑いだす。

「あはははっ、おまっ、うさ耳カチューシャ、猫耳カチューシャ、体操着と来て次はそれかよっ!あははっ」

日向がひーひー言いつつも今までの事を思い出したくもないのに俺に思い出させてくれた。

「黙れ愚民が、貴様には関係ない」

皆が個性的な感想を述べたり、ヤジを飛ばしたりしているが直井はそれらをシャットダウンしたようで、気にせず俺に歩み寄ってきた。

「ねぇ、音無さん、今回は自信があるんですっ!」

なんの?

短いスカートから白くて触ったら気持よさそうな太腿が目に入る。
触ったらなんてこんな大勢いる前で考えたらダメだ。
心を殺して、直井から目をそらす。
にやけないように真顔を努める。

「音無さぁん……」

俺がいつものように何も言わないから焦れたのだろう。
甘ったるい声で名前を呼ばれる。
大勢いる場所でそんな声を出さないでくれ……。

「つうかそれなんか小さくないか?」

ひと仕切り笑った日向がソファの端にボスっと座り肘掛けに肘を乗せ顎を突いて直井に問いかけた。

言われてみれば丈も袖も短いような気がする。

「そうだな、小さいな」

俺は直井には一切答えず日向に向けて相槌を打つ。
直井が疎外されまいと俺と日向の間に割って入る。

「これ借り物なんですけど……サイズが合えば気に入って頂けますかっ!?」

そういう問題じゃあないだろ。

「はぁ……お前ホントに……」

日向を見ればニヤニヤと楽しそうに直井と俺を見ている。
ここで笑えるお前が羨ましいよ。
いや……俺みたいな考えを持っていなければ普通に笑えるんだろうな。

ん?借り物?借り物っつったか?

「それ……誰から借りた?」
「立華かなでです」

やはり。
だがいったいどんな経緯で借りたんだ。
まさかかなでから引っ剥がしたんじゃないだろうな。

「どうやって借りた?」
「え?普通に貸してくれましたよ」
「かなでは何も訊かなかったのかぁ?」
「『どうするの?』と聞かれたので僕が着るんだ、と言ったら、『そう……』って言って普通に……『一着ならあげるわ』と言ってましたが音無さんに見せてからがいいと思って……それは保留にしてもらいました」

かなでぇええ!?そんなんでいいのか!?
しかもあげちゃうのか!
今度麻婆豆腐でも奢ってやってそういう事はいけないって教えてやろう。
そういうマニアもいるからな。

「お前天使のモノマネうまいな」
「それでですね、音無さん!」

見事に日向を無視したな。

「いや、もういいから……」
「そうですか……」

いつも以上に可愛くなった直井をなるべく見ないように、開いているゆりの近くソファ……日向の隣の一人掛けのソファに腰かけた。

日向の隣も開いているが、そこに座ると直井が間に入ってくる可能性があるからな。
今そんな事をされたら堪ったもんじゃない。

「おーい、名前はどうするんだー?文子ちゃんって呼んだ方がいいのかぁ?」

ぁあ、そんな事言ったらまた直井が怒るぞ。
タンタンタンとリズムよく足跡が聞こえたと思ったら直井が日向に詰め寄っている。
日向が相手してくれれば平和だな。
こっからじゃ直井のナマ足見ないで済むし。

「な、なんだと貴様っ!隷属で低俗な輩が何を言っている?僕は神だ…貴様見たいな通俗な奴に呼ばれる名前なんてないっ!!」

ソファの肘掛けにダンっと両手を突いて怒りも露に声を荒げる。
というか近くないかその距離?

「ぞくぞくなんだよおまえはぁー、そんな事言って、ホントは照れてんじゃないのぉ?女みたいで可愛いぞ、あ・や・こ・ちゃん♪……うおっ!」
「また自分の不甲斐なさを嘆きたいようだな……いいか、貴様は重曹だぁ……多方面に渡り効果をはっきし、しかも使い勝手がいい……何の能力もなく騒音を産むだけの貴様とは大違いだ……さぁ早く重曹の素晴らしさに気づくんだ……」

日向も直井が可愛いと思っているのか!?
まさか、こんな所にとんだ伏兵がいたもんだ。
いやいやいや、直井に限って有り得ない。
直井は俺に夢中だからな、日向なんか相手にするはずがない。
それよりも直井、顔が近いぞ、日向の胸ぐらを掴んで目を合わせているだけなんだろうが……ここから見るとキスをしているようにも見える……。

「あ……あ……じゅう、そう……使える!油汚れっ、カップについた茶渋を落とせる!掃除に使えるのに料理にも使えるっ!!安全!自然を考えているっ?入浴剤だって簡単につくれるっ……肌にいいっ!?なんでもこなす重曹に比べて俺は何なんだぁあ!!汚れを落とせないっ灰汁をとれないっ環境を汚染して生きている!?俺はいったいなんの為に生きているんだぁああ!不甲斐ないよぉぉおおおぉぉおおおっ!!!」

「ふんっ、わかればいいんだ」

直井が満足気に胸を張る。
日向も毎回懲りない奴だな。
目を閉じりゃいいじゃないか。



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