「ぅうっ、んっ?」 彼ががばっと身体を起こす。 そのために、彼に絡ませていた腕が解けた。 「……?」 音無さんの目が見開かれ、僕を映す。 「直井……。」 「音無さん……?」 冷や汗が額を伝う。 まさか、そんなはずは、でも。 信じられない気持ちが、僕の行動を遅らせた。 「お前……俺に何をした……?」 彼の瞳が怒りに濡れたように見えた。 「うあっ」 頬に熱い衝撃。 彼に叩かれた。 やはり、催眠術が解けている。 乱暴に彼が僕の中から出ていく、衝撃に小さく悲鳴を上げた。 左手首を掴まれ、肩の関節が外れるんじゃないかと思うほど勢い良く右側に引っ張られる。 うつ伏せにさせられ、腕をついて身体を起こそうとする頭を掴まれ布団に押し付けられた。 「何をしたかって聞いてるんだよ!!」 彼の怒声が部屋に響く。 顔を布団に沈めさせられているため、答える事が出来ない。 いや、そうでなくとも、彼に気圧されて答える事が出来たかどうか疑わしい。 「ぅうっ、くっ」 「催眠術はもう使うなって言ったよな?」 腰を膝で押さえつけられて、後頭部の髪を鷲掴みにされて頭を持ち上げられる。 痛みで呻く事しかできない。 まさかこんな事になるとは思っていなかった僕は、もちろん途中で催眠術が解けた場合の事なんて全く考えていたかった。 叩きつけるように頭を再びベットに押し付けられる。 なんとか彼の表情を伺おうと顔を横に向けたけれど、それを彼は僕が催眠術を使うためだと考えたのだろうか。 さっき掴まれた方と逆の僕の手首を掴んで背中の上で捻りあげた。 「ぁああっ!」 痛みに思考が奪われる。 音無さん、痛いです、音無さん。 自由な方の手でシーツを掴もうとするがうまく動かせない。 脱臼でも起こしているのだろうか。 「あっ、ごめっなさっ、うああっ」 ギシギシと関節が悲鳴を上げる。 彼の事を怖いと思った。 限界まで腕を捻られる。 折れてしまうんじゃないだろうか。 「痛っ、ぁあ、ぅううっ」 腕は捕らえられえたままだけど、捻る力を緩められる。 ぜいぜいと喉から音がなる。 「ごめん、なさいっ、ごめんなさいっ」 彼の様子を伺えないから、彼が次に何をするのかわからなくて怖かった。 けれどそれ以上に、彼に捨てられるのが怖かった。 どうして、こんなはずじゃなかったのに。 どうすればいいのかわからなくて、しゃくりあげながら謝罪の言葉を口にする。 彼が小さく舌打ちをするのが聞こえる。 「おとなしさんっ……」 「黙れっ」 ぴしゃりと言い切られた。 涙が止まらない。 でも、こうでもしないと彼を手に入れる事なんて出来なかった。 僕にはこうするしか術(すべ)がなかった。 だから言い訳なんて出来ない。 謝る事しか出来ない。 「すみませんっ」 下腹部に腕が差し込まれ、腰を引き寄せられた。 そして僕の中に一気に彼の怒張した性器が押し入れられた。 「んぁっぁああっ!」 身を裂かれるような痛みに襲われて悲鳴を上げる。 跳ねる身体を押さえつけるように伸し掛られ、堰を切ったように涙が溢れた。 どさっと彼が僕の顔の横に手をついて、その音に思わずビクっとした。 もう片方の手は腰を掴んだまま、彼は自分の態勢を整えると間髪入れずに律動を開始した。 「ひぃっ、うあっ、いたぁっ、ひんっ、やぁっ」 爪をシーツに立てるが震えた手ではうまく握りこめない。 彼の激しい動きに上手く痛みを逃がす事も許されなかった。 「何が、嫌なんだよ。お前が誘ったんだろっ」 「ごめっ、なさっぁあっ、あっ」 彼の熱い吐息に耳をくすぐられ、ベットにつかれた彼の手にそっと手を重ねる。 痛いけど、それでも彼に求められている事が嬉しかった。 道具のように扱われても、彼が僕で興奮している。 それだけが救いだった。 「おとなっしさっ、あぅっ、うっ」 鉄臭い匂いが鼻について、出血している事がわかる。 この痛みで出血していない方がおかしいと思うけれど。 涙はボロボロと流れて、閉じる事を忘れた口からは涎が垂れる。 きっとぐちゃぐちゃで情けない表情(かお)をしているんだろう。 けれどそんな事に構っていられる余裕はない。 傷ついた場所をぐちゅぐちゅとかき回されて快感なんて汲み取れやしないけれど、彼に征服されているのを感じた。 僕を必要として下さい。 どんな事でもいい。 彼の望む事なら耐えられる。 だって……。 「好きっ、好きっですっ、音無さんっ」 「アホかっ……」 僕の手の下にあった彼のそれが、滑って抜けたと思ったら上から抑えつけるように握られる。 「んぁっ、あっ、はあっ」 その彼の手に額を乗せて、痛みで意識が飛びそうになるのを堪える。 「ひっ、ぁっ、ああっ」 「うっ、くっ」 彼からくぐもった声が漏れて、がしりと腰を持ち直される。 律動が速くなり彼の限界が近い事がわかった。 「うっ、直井っ」 「はぁあっ、ひゃ、はうっ」 強く深く腰を打ち付けられたと思ったら、彼が僕の中で吐精する。 手を痛いくらいに握り締められて、全てを僕の中に送りこむように緩やかに腰を振られた。 彼の熱い息遣いを項に感じる。 「おとなしさん……」 「…………」 ズルリと彼が抜けていって、中に出された物がこぽりと流れる感触は決して気持ちの良いものではないけれど、彼の出した物だと考えれば悪くないと思えた。 腰を掴んでいた手に転がされ、支えを失った僕の身体は糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる。 彼に見下ろされているのは気配でわかるけれど、身体が動かない。 身も心も疲弊して、動く事も喋る事も億劫だ。 目にかかった髪を払う事も出来ない。 全身がズキズキと痛むし、頭の脈をうるさい程に感じた。 そこでキスを交わした事が昨日のように感じられる。 しばらく彼は僕を見下ろしていたけれど、ベットから降りてどこかに行ってしまう。 水音がして彼がシャワーを浴びているのがわかった。 僕も部屋に帰らなければ。 彼の恋人でもない僕はここにいてはいけない。 涙が零れた。 end back |