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「音無さん…貴方は僕の事が好きなんです」

精神を集中させて彼の瞳を見つめる。
音無さんが眼を見開くの見て、彼が僕の術に導入されたのを知る。

椅子の背もたれに置かれている彼の腕に触れる。

「好きだから、貴方は僕を欲しくなる。自分の物にしたくなる。今すぐに」

音無さんが息を飲む。
僕から視線は外さない。いや、外せないんだ。

腕から手を滑らせて、彼の手を包んだ。
ゆっくりと指を解(と)いて缶コーヒーを奪った。

「音無さん」

彼にゆっくりと近づいて額に唇を寄せる。
眉間、鼻筋と滑らせて額どうしをくっつけた。

「愛してます」

僕の偽りない気持ち。
本当の貴方には伝わらない。
けれどドキドキしている。
馬鹿みたいだ。
ただの自己満足、それでもいい。

彼との顔の間に僅かな隙間をあけてもう一度視線を合わせた。

彼の手が僕の頬に触れる。
指の甲で感触を確かめるように撫でられて耳も同じようにされてくすぐったい。
その手が後頭部を包んだと思ったら引き寄せられて、目を閉じて彼の唇を受けた。

チロリと舐められて思わず目をぎゅっと瞑った。
すぐに舌は引っ込んだけれど、今度は唇を唇で柔らかく挟まれる。
何度も優しく喰まれるようなそれは恥ずかしいけれど心地がいい。

缶を持ったままだったけれどもっと近づきたくて彼の首に両手を回した。
しがみつく事は出来ないけれど、腕を回しただけで十分な安心が持てる。

再び音無さんが舌を出して僕の唇を舐めてきた。
舌先を少しだけ差し込まれ横にベロリとされて、ついでに頬も少し舐められた。

「ん…」

鼻にかかった声が漏れる。
すると彼が笑ったのが息遣いでわかった。
目を閉じている僕にはどんな表情で笑っているかはわからないけれど。

さっきのように舐められて、今度は僕の噛み締めている歯を舌先でトントンとノックされる。
口を開けろと言われているとわかり、大きく息を吐きながら力を抜くと、まだ開いた訳でもないのに彼の舌が勢いよく侵入して来た。

「んぅううっ!?」

驚いて身体を引こうとしても素早く脇の下から伸ばされた手が、今まで以上に僕を引き寄せて叶わない。

「んっ、うっ、ふっ」

その衝撃で握っていた缶からコーヒーが零れて僕の手を濡らした。
音無さんの部屋も汚してしまうのに。

抱き寄せられて無理な姿勢を強いられる。
踏ん張るけれど足が震えてしまって、足が滑ってしまう。
脇に入れられている腕に支えられながらゆっくりと膝が折れていき、彼の身体が僕に影を落とす形でついてくる。

ぴしゃりとさらに僕の手を汚したコーヒーが服の隙間を重力にともなって零れ落ちてくる。
これ以上零さないように缶の口を水平に保とうと頑張ってはいるけれど、手が震えてしまう。

「ふあっ、はっ、はっ」

やっと開放してくれた。
彼に腕を回さないからか、それともコーヒーの匂いを感じとったのか知らないが、僕の手から缶コーヒーを取ってデスクの上に置いた。

それでもまだ貴方に抱きつけない。
肘から雫が滴る程に濡れてしまっている。

振り向きざまの彼に手首をつかまれる。
ぼうっとした頭で、汚れちゃうのにな。と考えていたら

「ん、お、音無さんっ」

彼が僕の手のひらを舐めはじめた。
くすぐったいその感触に身を捩るも逃げられない。

袖をグッと捲られて肘から手首まで一気に舐め上げられる。
ひっと息を飲めば彼が気持ち悪いか?と聞いてくる。
そんな訳ないじゃないですか。と言うと彼は作業に戻った。

気持ち悪くはないけれど。
こっちを見ないで下さい。
恥ずかしくて仕方がないです。

満足したのかやっと腕を放されて、これ以上させまいと僕は捲られていた服をさっさと下ろす。

彼が椅子を降りて僕の目の前にしゃがみ込んだ。
顎を持ち上げられ再び唇を落とされ、今度はすぐに舌が差し込まれる。
舌を絡め取られるけれど、どう応えていいかわからない。
彼にされるがままにしていたら、舌が奥まで入ってきて苦しい。
えずきそうになって少しだけ身体を後ろに倒す。
けれど彼も一緒について来て、息苦しさは変わらない。

「んぅっ、うっ」

さらに身を引くと背中にベットが当たって退路を塞がれてしまった。
角度を変える際に、息を吸って酸素を取り込もうとするがそれも短いものだった。

苦しい。
彼の服をぎゅっと握りこむ。

「ふあっ、はぁっ、はぁっ」

やっと開放されて肩で息をしていたら、親指で目尻を撫でられた。
涙が浮かんでいたようだ。
彼もいつもより息が荒い。

ベットと背中の間と膝の下に手が差し込まれ、ぐいと持ち上げられそのままベットに乗せられる。
彼に首に腕を回して寝っ転がれば、彼もそれに逆らわずに身体を倒す。
ベットの外にある足も丁寧に乗せられ、彼が馬乗りになった。
太腿、腰、胸と撫でられて、人差し指で制服のファスナーを下げられる。
その時も彼の四本の指は胸、腹部を撫で下ろす。

「お前いい匂いがする。」

僕の首元に顔を埋めて深く息を吸われる。
シャワーは浴びたけれど、もう汗をかいてしまっている。
それをそんな風に言われたらどんな表情(かお)をすればいいのかわからない。
幸い彼に僕の表情を見られる事はなかったけれど、首筋に皮膚を引っ張られる小さな痛みを感じた。

「っ、お、音無さんだっていい香りですよ?僕のは、さっき浴びたシャンプーか何かの香りだと思うんですけど。」
「そうか?前にもそう思った事があったんだけどな。」
「えっ……」

前にそう思ったってどういう事だろう?
彼に催眠術をかけたのはこれが二度目だけれど、あの時は彼の記憶を呼び起こす手伝いをしただけだ。
その時は他の事は何もしなかった。
僕を好きになってしまう。
今回それだけの事をかけたので、以前の事にまで作用されるはずはなかったのだけれど。

「んっ」

直に肌を触られ思考が中断する。
前は肌蹴られ、感触を確かめるかのように撫でられる。
脇腹辺りはくすぐったくてつい身を捩ってしまう。

肩からシャツが落ちて腕に絡まりそうになって、腕を抜く。
もう片方は音無さんに手伝ってもらって脱いだ。
彼がベットの外に服と学生帽を落としながら、ベルトに手をかける。
胸に舌を這わせられ頂きを潰すようにされ、声が漏れそうになる。

気持ちいいのかそうじゃないのかよくわからない。
くすぐったいけれどそれだけじゃなくて。

「んぁっ、んっ」

反応を示すと、彼は気を良くしたのかそこばかりを弄ってくる。

「お、音無さんっ」

残っていた制服を下着ごとずり下げられる。
恥ずかしいけれど、仕方なく足を抜いて彼がやりやすいようにした。

「あっ、待って、おっ音無さんも脱いで下さいよ……」

僕の胸を舐めながら彼が目線だけちらりとくれた。

「お前がやって」

顔を上げて、ずりずりは僕の身体を上がって彼が僕の腹の上で止まる。
膝立ちの状態になっていて全体重をかけられてるわけではないから苦しいという事はなかった。
肘をついて身体を支え起き上がり、彼の制服のタイを外しにかかる。
ブレザーのボタンを外してシャツのボタンに手をかけた。
小さいそれは片手だと外しにくい。

「遅いぞ」

僕の様子を観察していた彼が言う。
その口調はイラついたものではなかったけれど、彼を待たせていると認識した僕は焦ってしまう。

「す、すみません」
「謝るなよ」

彼に手を外されて、自分でさっさとボタンを外してしまう。
シャツとブレザーを一纏めに脱いでぽいとベットの外に放る。
僕の服の上に重なったそれが彼の抜け殻のように見えた。



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