3−5



「…花宮真、情けない男ですね」
「…あ?」
うつぶせにした細い体を押さえつけ、手にした小瓶のフタを開けようとしていた花宮は、嘲りを含んだ黒子の言葉に動きを止めた。
「…要するに、ボクを壊して、赤司君から奪ってやりたいって事でしょう?…それだけのことにクスリの力を借りるなんて、よほど自分に自信がないんですね」
「…何だと?」
「テクニックがない?それとも短小で、早漏だったりするんですか?…男なら、自分の体一つで全てを奪ってみせるくらいの意気込み、見せればいいのに」
少なくとも赤司君ならそうします。
はんっ、とバカにしたように鼻を鳴らした黒子の顎を掴み、花宮は無理やりその顔を覗き込んだ。
不自然な体勢の苦しさに表情を歪ませながらも、強い光を失っていない空色の瞳に、眉を顰める。
「…この期に及んでの挑発…テメー、何を企んでる?」
「…さぁ?ただヤラれるのが悔しいから、せめてもの意趣返しですよ……あぁ、それとも、まともなままのボクを抱いて、夢中になっちゃうのが怖いんですか?」
「…いい加減、生意気なんだよガキがっ!」
忌々しげに吐き捨てながら、花宮は黒子の頬を強く張る。
「…っ!」
更には、衝撃に崩れ落ちようとする体を許さず仰向けにすると、脅しのつもりで細い首に手をかけた。
「…誰にでも足開く淫売が、うぬぼれてんじゃねぇよ」
「…うぬぼれかどうか、ためしてみたらどうです?」
腕を縛り上げられたたまま、苦労して身を起こした黒子は、花宮の唇の端に噛みついてみせた――それは、あからさまな挑発で。
「……わかった、いいぜ、乗ってやるよ」
そんな黒子に、花宮は噛みつき返すことで応えた。
「…ん!んぅ…っ」
強引に舌を吸い上げ、その刺激に跳ねた体を押さえつけるように、ねっとりとした愛撫を施す。
「や…ぁっ!」
呼吸を塞がれる苦しさから逃れるように反らされた顔は好きにさせ、花宮は唇を胸元へと移動させた。
「…きゃう…っ!」
そこで健気に存在を主張する薄ピンク色の突起に舌を這わせた途端、ビクンと跳ね上がる快楽に素直な体。
「…は、鳴き声まで子犬みてぇ……素直ないい子ちゃんは、ちゃんと可愛がってやらねーとな」
片手で胸の愛撫を続けながら、花宮は黒子の耳元に口をよせ――
「…なんて言うかよ、バァカ」
「うあ…!?」
バカにしたように口元を歪ませながら、目の前の薄い耳たぶに思い切り歯を立てた。
「…い、た…っ」
「…オレがほだされると思ったか?…時間稼ぎしたいお前の目的はわかってんだよ……要するに、裏の制裁を下すんじゃなく、表の世界で裁かせたいんだろ?」
「…っ!?」
花宮の言葉に、今度こそ余裕を失くした黒子は、ただ目を見開くことしかできない。
「…オレが運び屋として使い捨てたガキ、お前がつくった施設の出なんだってな?…それ以外にも、オレのせいでクスリ漬けになっちまったヤツ、取引の諍いに巻き込まれて大ケガを負ったヤツ…お前がオレのこと恨んでんのは知ってたし、その割に赤司が動かねぇのはおかしいと思ってたんだよ……表沙汰にする方がオレへのダメージになると読んで今回のことを仕組んだんなら、大したもんだ」
「…最初から、知っていて…っ」
「流石に、お前自身が乗り込んでくるとは思ってなかったけどな…その優しさに涙がでそうだ――ほんと生意気なんだよ、男を咥えるしか能のないメス犬のくせに」
「…ひ…っ!」
自分を睨み付けてくる、諦めを知らない心。
それをくじいてやりたくて、ローションをまぶした指先を狭いソコに無理やりねじ入れながら、花宮は黒子を傷つける為の毒を吐き続ける。
「お仲間に、せいぜい可愛く鳴く姿を見せてやれよ…あながちバカじゃねぇみたいだし、どうせこの船のあちこちに、盗聴器でも仕掛けてあるんだろう?」
「…おいおいおい、ソレってマズイんじゃねぇの?」
そこで口をはさんだのは、今の今まで面白くなさそうに事を見守っていた原だった。
その存在を今更思い出したのか、面倒なのを隠そうともしないまま、花宮はおざなりに返事を返す。
「…マズイ?何が?…クスリの取引現場をおさえられようが、こいつをどうしようが、警察がオレの手中にある以上、誰も手は出せねぇよ」
「…ぁ、けいさつ、しゅちゅうって…っ」
「本部長以上のクラスの人間に、元トップを務めたOB……一体どれだけの人数が、オレの客だと思う?…現場のカスどもも、そこに気付かないほどバカだとは思わねぇし、たとえそうだとしても、どうもできねぇよ」
ここまできたのに、残念だったなぁ?
「赤司だけじゃなく、お前の悔しそうな顔が見られただけでも、罠はった甲斐があるわ」
「…花宮真…お前は、ぜったい、許さない…っ」
「おーこわ。…まぁ、その健気さに免じて、このまま最後まで可愛がってやるよ…お前もせいぜい楽しんで…」
そんな花宮の言葉は、最後まで音になることはなかった。
突然、部屋に鳴り響いた電子音。
それは、彼らが動いたという合図だった。
「……やっとですか」
「…な、に…?」
ほっと息をついた黒子に、花宮は眉を寄せる。
そして――





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