3−4



「…ん?Aの3?…よし、よく見つけてくれたな伊月、さっそく動員を……は?何だって?」
不自然に姿を消したパーティー客の行方を探し当てたという報告に、日向が明るい表情を浮かべたのは一瞬のこと。
すぐにそれは、訝しげなものに変わった。
「例のブツも運び込まれてんなら、あとは現場抑えるだけだろうが…は?客がなんだよ?」
現場が特定できたのなら、さっさと踏み込んで決着をつけてしまいたい。
そう考えていたのは、日向だけではない。
そばにいた火神をはじめとする捜査員たちは、突撃の命令を今か今かと待ちわびていた。
しかしそんな彼らに、通信を終えた日向が伝えたのは、待機の指示。
「…なっ!?どういうことだ…ですか!?」
火神の言葉は、その場にいる人間すべての気持ちを代弁したものだ。
日向とてそれは痛いほど理解しているのだろう、自身も納得していないのが丸わかりな表情で、わけを説明してみせた。
「…現場に、うちのお偉ら方がいるそうだ…」
「…な、それって…」
「警察の人間が、花宮の客になってるってことっすか!?」
「…マジかよ」
火神と同期の河原、福田、そして振旗が、驚愕と絶望がない交ぜになった声をあげる。
「…だから何なんだよ、そんなの関係…」
「…なくねぇんだよ」
彼らの混乱を一蹴しようとした火神を遮ったのは、日向の低い声だった。
「…先輩、だって…」
「…いいか、ここでそいつらを抑えたところで、後で圧力をかけられれば、全てがなかったことになる……いやそれだけじゃねぇ、下手すりゃ、二度と捜査ができねぇように、オレらの首が切られるかもしれねぇ」
「そんな…」
突きつけられた現実に、流石の火神も言葉を失う。
「…ちくしょう、花宮にしちゃガードが甘いと思ったら…案の定、最初から手は打ってあたってことかよ」
それは、今更過ぎる後悔。
「…だからって、このまま黙って引き下がれるかよ!後のことは後で考える、先輩、オレに行かせてくれ!」
「…バカが、勢いだけで何とかなるような相手じゃ…」
ブブブブブブブ…っ!
火神と日向の言い合いに割り込んだのは、低いバイブレーターの音だった。
「…な、なんだ?」
個人の携帯は置いてきたし、支給された通信機にバイブ機能はついてないはず。
何事かとスーツを探ると、右ポケットに入れられていた、薄型の携帯電話を発見する。
一体いつこんなものが――思い当たる可能性は、一つだけ。
「…まさか、黒子?」
「おい、火神?」
「すんません、ちょっと…」
このタイミングで、花宮と行動を共にしているはずの黒子が残した携帯への着信だ。
迷わず、火神は通話ボタンを押した。
「…おい、どうした?無事だろうなお前」
『…火神君、かな?』
しかし、聞こえてきた声は、黒子の僅かに甘く掠れたそれではない。
もっと低く、大人びたものだった。
「……お前、まさか…」
『キミにはいつも、僕のテツヤが世話になってるみたいだね……忌々しいけど、一応礼を言っておくよ』
僕のテツヤ。
こんな風に言ってのける人間に、心当たりは一人しかいない――赤司征十郎か。
「…お前、どういうつもりだよ、黒子はどうした」
『そのテツヤのご指名だよ、駄犬君……いいからつべこべ言わず、今すぐ現場に向かえ。じゃないと、手遅れになる』
「…っ!」
赤司の言葉に、火神は迷わず走り出した。
「おい!?ちょ、待て火神!!」
そんな火神に慌てて制止の言葉をあげた日向だが、そんなものを大人しく聞き入れるような相手ではないとわかっている。
「…ちくしょう、オレらも行くぞ!」
「先輩、いいんですか?」
「どうせ止められねぇんだ、だったらオレも好きにさせてもらう……棺桶に片足つっこんでるようなクソ爺どものことなんざ知るかボケェ!!」
行くぞ!とヤケクソ気味な号令に、捜査員たちも火神の後を追って駆け出していった。





「…やれやれ、」
捜査員たちの動きをモニターごしに眺めていた赤司は、珍しくぐったりと疲れた様子でため息をつく。
そんな赤司の傍らに立つ緑間は、眉を顰めながら口を開いた。
「…赤司、やつらにまかせて大丈夫なんだろうな?…他でもない黒子に関することだ、やはりオレ達が出た方が…」
「…真太郎、お前の気持ちは分かるが仕方がない、テツヤの希望なんだからね……そうじゃなかったら僕だって…」
刑事たちを映すものとは別のモニターに視線を移した赤司は、不快そうに瞳を眇めた。
「花宮真…今すぐにでも八つ裂きにしてやっているところだ」
小物が身の程もわきまえずテツヤに手を出すなんて、まさに万死に値する。
何も知らず、黒子相手に好き勝手に振る舞う男の姿に、赤司の周りの空気がビリビリと震えた。
――これほどまでに赤司が怒りを露わにしたのは、どれくらいぶりのことだろう。
それに呑まれ、一瞬自身の怒りすら忘れそうになった緑間だ。
「…敦、大輝と涼太は大人しく待機してるかい?」
「…んー、それだけで人殺せそうな目ぇしてるけど、何とか耐えてるみたいだねー」
黒ちん、怒らせるとこわいから。
「…でも赤ちん、あいつら間に合うかな?…オレも黒ちんに怒られるのは嫌だけど、黒ちんが壊れちゃうのは、もっと嫌だし」
ギリギリまで待ってダメなようなら、オレが花宮ヒネリつぶしに行っていい?
手にしたスナック菓子を食べ続けながら問いかけてくる紫原に、赤司は僅かに考えを巡らせてから答えを返した。
「…そうだな、まだ何も目的は果たせていないし、テツヤのことだからうまく時間稼ぎをすると思うが……僕がこれ以上はムリだと判断したら、大輝たち共々すぐに止めに入れ……その場合、テツヤの意思に関係なく、相手の生死は問わない」
「りょーかーい」
「…全く、黒子も黒子だが、あいつのわがままを許すお前もどうかと思うぞ」
可愛いのは分かるが、少々甘やかしすぎなのだよとため息をこぼす緑間に、赤司は苦笑した。
「…何を言ってるんだ真太郎、テツヤに甘いのは、僕だけじゃないだろう……でもまぁ、今回は少し心配をかけすぎなのは確かだな」
全てが終わったら、躾し直した方がいいかもしれないね。
――それはつまり、数日は2人きりで寝室に篭るということ。
楽しそうに笑う赤司に、緑間と紫原は目を見合わせ、肩を竦めてみせた。





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