1−4



「……んっ、…ぁ、ぁ…っ!」
僅かに掠れた黒子の喘ぎ声が、耳に心地よい。
口内を嬲りながら少し体に触れただけだというのに、その白い肌はすでにしっとりと濡れ、自らを犯そうとする男に甘く誘いかけてきていた。
…なるほど、これは堪らない。
今までどれほどの男たちがこの体を手に入れてきたか知らないが、一時の快楽と引き換えに、彼らのほとんどが魂を持って行かれたに違いない。
そんな風に考えるとそんな男たちが哀れでもあり――しかしそれ以上に憎くてたまらなかった。
…自分自身もそんな彼らの一人にすぎないと理解しながら、それでもこの独占欲をおさえる術を、火神は持たない。
「…あ…ァっ!」
唇を解放し、その端から流れた唾液を舐めとりながら、そのまま舌と唇で頬から首を愛撫する。
たどり着いた桜色の耳たぶを甘噛みすると、黒子の口から甘い悲鳴があがった。
…あぁ、いっそこのまま、思う存分めちゃくちゃにしてやろうか。
そんなことを考えながら、火神はわずかに身を起こし、従順に腕の中におさまる黒子に視線を落とした。
「……かがみ、くん」
目の前の男の思考を読み取ったのか、それとも自身の願望故か、誘うように火神の名を口にした黒子の瞳から、涙が一粒零れ落ちた。
アイスブルーの瞳から零れるそれは、まるで氷から溶け出た水滴のようだ。
ならばそれはやはり冷たいのだろうか、なんて思いながら唇を寄せる。
しかし、当たり前だがそれはあたたく、ついでに少ししょっぱい味がした。
バカなことを考えた自分がおかしくて、火神は小さく噴き出す。
「…なに、笑ってるんですか」
「…なんでもねーよ。……ほら、起きろ」
あまり表情が変わらないのは相変わらずだが、僅かに尖らせられた唇だけでも、黒子が拗ねているのが分かった。
気付いてしまった途端、そんな相手がやたらと可愛く思えてくるから困る。
そんな自分を誤魔化すため額にひとつキスを落とすと、火神は黒子の腕を引っ張り上げ、2人してベッドの上に身を起こした。
「……火神君?」
「…悪りぃ……やっぱり今は、できねぇ」
「……」
火神の言葉に、黒子の瞳が悲しそうに伏せられる。
「…ち、違うからなっ!お前が嫌だとかそんな理由じゃなくて…いやむしろ、オレが今どれだけの我慢を強いられているか、いっそ思い知らせてやりたいんだけどよ!」
慌てて黒子が抱いただろう思考を否定しながら、火神は手繰り寄せたシーツで黒子の体を包み込んだ……あまりに、目の毒だったので。
「…別に、今更お前の為だとか言うつもりもねぇよ。…ただ、」
「…ただ?」
「ここでこのままお前のこと抱いちまったら、他の男どもと同じになる気がして……オレは、それじゃ嫌だ」
「………っ」

『テツ。オレはあんな奴らとは違うからな!どんなことがあっても、オレだけはお前を守ってやる!』

「……黒子?」
「…すみま、せん…」
何に衝撃を受けたのか。大きく目を見開いた黒子は、次の瞬間には、何かに耐えるように両手で顔を覆ってしまっていた。
それがまるで泣いているように見えて、火神は慌てて謝罪を口にする。
「…悪い…オレ変なこと言ったよな」
「…違う、んです。……昔、それと同じような事を、言ってくれた人がいて、それで…っ」
絞り出すように言葉を紡ぐ黒子。その様子があまりに辛そうで、火神は黒子の頭に手を乗せた。
そのまま乱暴なくらいの強さで、ガシガシとそこを撫でてやる。
「…痛いです。でも、やめないで下さい」
「…何だよそりゃ」
黒子の言い分に苦笑しながら、どうしても確認せずにはいられなくて、火神は恐る恐る疑問を口にした。
「…そいつは、お前にとって大事な奴なんだよな?…今はどうしてんだ?」
「………大事な、人…でした。…でもその人は、今はもう…どこにもいません」
その台詞には、まるで自分に言い聞かせるような響きが込められていて。
そこに潜む真実は何なのか、知りたいと思う。
それでも、今はそこまで踏み込むだけの自信が、火神にはなかった。
「…そっか。……悲しいな」
だからそれだけ言って、黒子を胸に抱き込む。
「…っ!」
黒子もまた多くを語ろうとはしなかったが、火神の胸に縋り付くようにして身を任せた。





main page

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -