2−2



2人が出会った日のことを思い出す時、まず脳裏に蘇るのは、赤い紅い色――

『…驚いたな、オレがいるのかと思った』
そう声をかけられ、黒子は、前に踏み出そうとしていた足を引っ込めた。
ゆっくりと振り返った先にあったのは、自分と同じ年頃の少年の姿で。
それを視界におさめ、思わず首を傾げた。
確かに背格好は多少似ているかもしれないが、少年の髪と瞳の色は目にも鮮やかな赤――どう考えても自分とは正反対なのに、先ほどの台詞である。
それを訝しく思っていると、そんな黒子の内心を見透かしたのか、少年は自分の髪を指さしてみせた。
『…髪が、血ですっかり染まってしまっているよ。まるで、オレみたいな赤にね。…もしかして元の色は、その青空みたいに綺麗な瞳と同じ色かい?』
赤も白い肌に映えて綺麗だとは思うけど、生まれたままのお前の姿を見てみたいな。
『…だからほら、そこから降りてきてくれないか?』
差し出された手に、黒子は躊躇する。
『……でも…』
『…突然“ご主人さま”がいなくなってしまって、お前が戸惑っているのは分かるさ……ひとり残され、生きていく意義が見つけられないというのであれば、オレが新しい飼い主になってあげよう』
言いながら、少年は黒子に向かって両腕を広げてみせた。
体格自体は十人並み。それでもそこには、何故か無条件で身を委ねたくなるような安心感があって、黒子の気持ちをぐっと動かす。
『それでもまだ寂しいというなら、お前が可愛がれるペットを、好きなだけ与えてやるよ』
『ペット…?』
『そう、いつもそばに侍って、お前を守ってくれる存在』
『…それがいれば、もう一人ぼっちにはなりませんか…?』
『…勿論だ。オレと来れば、お前に二度と寂しいなんてさせないよ……さぁ、おいで』
『……っ』
そんな言葉と同時に向けられた笑みに、黒子は進もうとした先――50階建てのビル、その屋上の手すりの向こうに背を向け、赤髪の少年の腕の中に飛び込んだのだった。








「…ふぁ…っ!」
激しく突き上げられ、黒子は歓喜の声をあげた。
その甘ったるい声に、黄瀬の中の飢えはますます切羽詰まったものになっていく。
もっともっともっと――この体の全て、喰らいつくしてしまいたい。
そんな思いに突き動かされ、渇いてしまった唇を舐めながら、腕の檻に閉じ込めた細い体を抱えなおす。
「…あん…っ!…ぁ、ぁっ、黄瀬く…っ」
「…黒子っち…っ」
より深くなった結合が苦しいほどの快感をもたらし、黒子はその空色の瞳から涙をこぼしながら、いやいやとむずがる子供のように首を横に振った。
「…もっと、ゆっくり……も、ボク…っ」
「…限界っスか?…いいんスよ、イっちゃいなよ。何度だって、天国みせてあげるから…」
「ひゃぁっ!ぁ…ん、ん…っ」
感じるところを容赦なく狙われ、思わずもれ出た黒子の甲高い悲鳴は、黄瀬の口の中に消えていった。
呼吸を塞がれるのが苦しいのだろう、黒子の眉が寄せられる。
それでも、黒子が抱かれながらキスされるのを好むのを知っているため、黄瀬は遠慮なくその柔らかい唇を堪能した。
「…んー、やっぱり甘いっスねー黒子っち……ほら、いい子だから舌だし…いてっ!?」
快楽にうるんだ黒子の瞳を正面から覗き込み、それはそれは楽しそうに囁く黄瀬だったが、そこでとつぜん乱暴に頭を後ろに押しやられ、痛みに思わず悲鳴をあげた。
「…いったい!…ちょ、なにするんスか青峰っち!もう、いま腰からグキって嫌な音がしたっスよ!」
「…ざまーみろだバーカ……あんま調子のってるからだろ、何が天国みせてやるだよ、テツの限界考えろ」
早々に寝落ちさせるつもりかよ。
黒子を後ろから抱えながら、戯れに胸の飾りや耳などを愛撫していた青峰が、そう不満を訴えてくる。
「…だからって急にひどいっス!オレの腰が使いもんにならなくなったらどうし…っ」
青峰の暴挙へ向けられた黄瀬の主張は、最後まで言葉になることはなかった。
突然、首にしがみついてきた黒子の行動を不思議に思い、顔を覗き込みながらやさしく問いかける。
「…黒子っち、どうしたっスか?」
「…です…っ」
「ん?」
「…今は、ボクのことだけ、見てて、くれなきゃ…やぁ…です…っ」
自らが与えた快楽に乱れる呼吸の合間、涙に潤んだ瞳でそんなことを言われ、本能に火がつかない男がいるものか。
「…黒子っち…!」
たまらず黄瀬は黒子を強く抱きしめ、本能のままに細い体を突き上げた。
「あぁ…っ!も、ボク…い、っちゃ…っ!」
「…も、オレも限界、かも…っ」
犯される悦びに黒子のソコは収縮を繰り返し、男の欲を更に煽り立ててくる。
自分が黒子を食らっているのか、それとも自分が黒子に食われているのか。
いっそ、頭から丸のみにされ、黒子の一部になってしまうのもいいかもしれない。
半ば本気でそう考えながら、黄瀬は己の欲を解放した。
「……っ!」
「ぁっ、あぁ…っ!」
「…黒子、ち…っ」
注がれた熱に震える体を宥めるように優しく撫でてやりながら、黄瀬は黒子の顔中にキスの雨を降らせる。
「…ぁ…っ、…あ、つい、です…っ」
「…あーあ、黒子っちドロドロっスねぇ…」
黄瀬のものと黒子自身のもの、2人分の白濁液に汚されぐったりと横たわる黒子の姿に、黄瀬は己の欲が再び膨れ上がるのを感じた。
「…んー、できればもう一回くらい、付き合ってほしんスけど…」
「ふざけんなバカ。調子にのってんじゃねーよ黄瀬のくせに」
「…ですよねー」
黄瀬からのおねだりを、間髪入れず否定してみせたのは青峰だった。
美味しそうに熟れきった黒子を手放すのは辛かったが、黄瀬は大人しく身を引く。
だって、これ以上青峰に我慢を強いるような事をすれば、あとで黄瀬は立ち上がれなくなるほどボコボコにされるだろうし、黒子も黄瀬とは別の意味で立ち上がれなくさせられるだろうから。
「…んじゃ、すっげぇ残念だけど、ここで交代っスね……黒子っち、もうちょっとがんばろ?」
「……ん…っ」
黄瀬に腕を引かれベッドの上に身を起こした黒子は、今度は青峰の手によってその膝の上に抱き上げられる。
そんな体勢のおかげで、普段ははるか上にある顔を間近に見ることができ、黒子は思わずふにゃりと相好をくずした。
「…なに笑ってんだよテツ」
「だって、青峰君がこんなに近いです」
「…バーカ、オレはいつだってお前のすぐそばにいるだろうが」
嬉しそうに笑いながら髪を撫でてくる黒子を好きなようにさせながら、青峰は腕の中の体を強く抱きしめる。
「…オレは、お前を残していったりしねーからな…ずっといっしょだテツ」
「…青峰君」
「オレも!オレもっスよ黒子っち!」
「うるせー!お前は黙ってろ!」
1人になることを何より恐れる黒子を知っている2人は、こうして言葉で、態度で、そばにいることを示してくれる。
「…ありがとうございます……2人とも、大好きです…っ」
泣き笑いの表情で首にしがみついてくる黒子を、しばらく優しい眼差しで見守っていた青峰だったが、そろそろ我慢も限界だった。
「…まぁ、そうわけでだ」
「…ひゃぁっ!?」
一度男を受け入れ、すっかり濡れそぼっている黒子のソコを指で乱暴にかきまぜながら、ニヤリといやらしく笑う。
「…ぁ、ぁ、ぁ…っ!」
「…お前も、せいぜい可愛がってくれよな、ご主人様?」
腰を掴まれ、浮いた隙間にあてがわれた熱に、黒子はコクリと小さく喉を鳴らした。
「のぞむ、ところ、ですよ…ボクの可愛い、青峰くん…っ」
「…言ったなテツ、覚悟しろよ…っ」
「…ぁんっ、ぁ、あぁ…っ!」
容赦なく突き上げられ、その衝撃にのけぞるしなやかな背中。
2人の男に愛される悦びと幸福に、黒子は溺れていく。
そしてそれから何時間も、ベッドの上から甘い声が途切れることはなかった。







かつて、闇の世界を総べていた男がいた。
彼には溺愛する妻と、そんな彼女との間にもうけた息子が1人いた。
――やがて、仲間の裏切りによって妻を失うことになった男は、息子に異常な執着をみせるようになる。
外の世界を教えず、己の手の中に閉じ込め、自分だけを見るように――自分だけが、子供にとっての世界になるようにと。
そんな風に歪んでしまった男に、誰が自分の命を預けたいと思うだろう。
弱体化した彼のファミリーが敵対組織に狙われたのは、当然のことだったのかもしれない。
残った仲間と家族を次々に手にかけられ、彼らが流した血だまりに自身も倒れ伏しながら、男は最期まで腕に抱いた息子を離そうとしなかった。
血の雨を浴び、全身真っ赤にそまったその姿を見つめながら、男は涙を流す。
――自分がいなくなったら、この子はどうなってしまうのか。
自分しか知らない子供が、1人で生きていけるとは思わない。
いっそ、いっしょに連れていってやったほうがこの子のためなのかもしれないと、震える手で子供の小さな頭に銃をつきつけるが――どうしても、引き金を引くことはできなかった。
「……どうか、お前を生かしてくれる人間を、見つけてくれ…っ」
それが、男の最期の言葉。
「……」
動かなくなってしまった男を前に、子供はしばらくじっとその場から動けずにいた。
敵が去り、怖いほど静まりかえった建物――そこに残されたのは、1人だけ。
その恐怖に泣きそうになりながら、子供はもつれる足で立ち上がり、屋上を目指して歩き出した。
何か考えがあったわけではない、ただ、高いところからの風景が好きだったから――いつか、この場所から鳥のように飛び立てたらと、いつも願っていた。
…自分を飼っていた人間はいなくなった。
もう自分を必要とする人間は、いなくなってしまった。
だからもしかして、今ならできるのかもしれない。
根拠もなくそう思い、たどり着いた屋上のフェンスを乗り越える。
そして、一歩先へと足を延ばしたところで―…

「…驚いたな、オレがいるのかと思った」
そう声をかけられ、子供――黒子は、前に踏み出そうとしていた足を引っ込めた。
ゆっくりと振り返った先にいたのは、自分と同じ年頃の少年の姿で―…

少年――赤司と出会ったこの瞬間から、黒子の世界は新しく作り直されていくことになる。





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