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【PREIDE:傲慢】





「…手を汚すみんなを見ているだけの自分に耐えられなくなったボクは、上官を通じて暗殺の任務を受けるようになりました……そのことについて後悔はしていませんが、みんなとの距離が開いてしまったのが2つ目の入れ墨を入れられた頃からだったことを考えると、間違った選択だったのかもしれません…」
抑揚なく語られる、悲しい過去の出来事。
火神も木吉も日向も、かけるべき言葉など、とっくに失っていた。
「…なんて身勝手なのかと、自分でも嫌になるほど分かっています。それでも、みんなの為に何かできることが…みんなに必要とされることが、ボクは確かに嬉しかった…」
だからこそ、前線から離され、閉じ込められたことが苦しかった。
必要以上に他人をいたぶり、弱者を踏みつけることに何も思わなくなった彼らが、悲しかった。
何より、変わってしまった彼らと、何もできない自分が許せなかった。
「……だから、あいつらの元から逃げようとしてたのか…?」
火神が小さく呟いた問いかけに、黒子はツラそうな表情で首を横に振った。
「…その時はそのつもりでしたけど、今思えばただ甘えていただけだったんでしょうね…」
彼らの元から逃げ出し、行きずりの男と体を重ねることで、自分はこんなに悲しいのだと、こんなに傷ついているのだと、訴えたかっただけなのかもしれない。
「本気で今の自分たちを変えたいと思っていたなら、他にすべきことはあったはずなのに、踏み出すことが怖かった……そのせいで、火神君には迷惑をかけてしまいました」
本当にすみませんとか細い声で謝罪する黒子の手を、火神は咄嗟に握りしめた。
「……火神君…?」
「…謝んなよ…オレは…っ!」
伝えたいことはたくさんあるはずなのに、湧き上がる想いをうまく言葉にすることができなくて、火神はもどかしげに唇を噛みしめた。
「…謝んなきゃいけねーのは、オレの方だ」
言葉もなく見つめ合っていた火神と黒子は、木吉の言葉に同時に振り向いた。
「…オレが逃げ出さなければ、お前たちが苦しむことはなかった」
「違います、それは…っ」
「…違わねーだろ。上層部は、赤司がオレみたく逃げることを恐れて、外堀を完璧に埋めたんだろうからな」
オレよりずっと頭のいい赤司が考えても他に手がなかったんだ、任務を受け入れる他にどうしようもなかったはずだと悔しそうに呟く木吉の言葉を、日向が引き取る。
「…たとえ拒否して逃げ出してたとしても、お前らは無事じゃ済まなかっただろう。軍人の逃亡は大罪だからな。軍部総出で追手がかかって、見つかればそのまま極刑だ……それくらいのこと、赤司もお前も、分かっていたはずだ」
だからこそ赤司は仲間に同胞殺しの汚名をかぶせることを選び、お前も壊れそうになった赤司やキセキの世代たちを受け入れるしかなかったんだろう。
痛ましそうに目を細めた日向から、黒子は逃げるように視線を逸らし俯いた。
「…それでも、罪は罪です」
自分たちを――自分の仲間を護りたいという自らの望みのために、他を犠牲にすることを選んでしまった。
「…誰が苦しもうがツラい思いをしようが、それより隊のみんなが大切だった……みんながみんな、自分たちのことしか、考えていなかったんです…」
外界から目をそらし、完全に閉じられた世界。
そこに存在を許されたのは、自分たちだけ――これ以上の傲慢が、あるだろうか。
「…だから、今ボクらがお互いを傷つけ合って、苦しむ羽目になっているのも、自業自得なんです…っ」
誰かひとりでも、自分たちは間違っている、共に在りたいという望みの為、他者を犠牲にしていいはずがないと言い出していたのなら――
「…平等に扱われることを望んでいたはずなのに、いつの間にかボク自身が他人を差別するようになっていました……隊の仲間と、その他の人と、どちらも同じ命のはずなのに…っ」
「…バカお前は…っ!!」
悲痛な黒子の告白を遮ったのは、火神の怒鳴り声だった。
「……火神、君?」
「…お前は、神にでもなったつもりかよっ!?」
誰にでも等しく愛を注げる存在がいたとして、そんなものは人ではないと必死に訴えながら、火神は戸惑いの表情を浮かべる黒子を強く抱き締めた。
「…軽く扱われる存在があっていいはずねーし、オレに護れるもんがあるなら、それがお前だろうが見ず知らずの相手だろうが、全力を尽くしたいと思う……でも、何かあった時、咄嗟に手を伸ばすのは、間違いなくお前にだ」
それが人の弱さであり、心だろう。
「…傲慢でいいじゃねーか。嫉妬したり自分の欲望優先させたり、誰かを憎んだり……それが、人間だろうがよ…っ」
少なくともオレは、お前に出会えてよかったと、心から思っている。
悲惨な過去があり、その結果として今お前がここにいるのだと分かっていても、お前を抱きしめたい、一緒にいたいと想う気持ちは変えられない。
「…そしたらオレも同罪だよな。…なぁ、オレは裁かれるべきか?苦しい思いをするのが当然で、いつまでも自分自身を責め続けなきゃなんねーのかよ?」
「……っ」
火神の腕の中で、黒子は涙を流しながら、ゆるゆると首を振った。
「…なぁ、黒子。人は誰でも罪を犯すよ……でも、罪を贖うことはできるはずだ」
一緒にその術を探そう。そして、お前たちは全員、幸せにならなきゃならない。
木吉はそう言いながら、黒子の髪を優しく撫でた。
「…それがオレにとっての贖罪だからな……その為にも、お願いだ、オレたちを信じて、力を貸してくれ」
一緒に戦おう。大切な仲間の為に、彼らと生きる未来の為に。
共に行こうと差し出された手――それは、目にしたことがある光景だ。
かつて彼らも、そうして自分を狭い世界から解き放ってくれた。
「……はい…っ!」
木吉の、日向の、そして火神の優しい笑みに励まされ、黒子は涙を流しながら、それでも力強く頷いてみせた。





色欲、暴食、嫉妬、怠惰、憤怒、強欲、傲慢


――それは、人の罪。


罪深き人が人であるがために必要な、大罪。





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