6−4



「…ぁ、あ、あぁ…っ!」
甘い悲鳴を耳に心地よく聞きながら、黄瀬はくたりと脱力した体に腕を回し、支えてやった。
「…黒子っち?」
「…ぁ…っ、もぉ、やぁ…っ」
「…うん、分かった」
自分の体を支えることも出来ず、黄瀬の胸板にグッタリもたれ掛かった黒子の背を撫でてやりながら、優しく囁く。
向かい合う形での座位は黄瀬の好む体位だったが、黒子にツラい思いをさせるのは本意ではないので、すっかり力の抜けてしまっている体をベッドへと横たえてやった。
「…ぁ…っ」
「…ごめん、ツラいっスよね……もう少しだけ、頑張って」
黒子の為を思うなら、早く解放してやるべきだと分かっている。
ただでさえ疲労がたまっていただろうに、これだけ好き勝手に貪られ、もはや息も絶え絶えといった状態なのだから。
しかし、一度火がついてしまったオスの本能は、そんな理性的な思考を容易く食い破ってしまう。
とどまることを知らない自らの欲に苦笑を浮かべながら、黄瀬は黒子の足を開かせると、再び己を埋め込んだ。
「…ひぁっ!…ぁ、き、せ…く…っ」
「…うん?」
「ぁ、きせ…く…っ」
切なそうな表情で、それでも獣の目を向けてくる黄瀬に、黒子は震える腕を伸ばし、その首にしがみついた。
「黄瀬、く…っ」
黄瀬の存在を確かめるように――自分がここにいると、黄瀬に確かめさせるように、繰り返し呼ばれる名。
「…黒子っち…ごめんね、もう大丈夫だから…っ」
黄瀬の中で未だ後をひいていた動揺の痕跡が、黒子に名を呼ばれる度に癒され、消えていく。
――今までに何度、こうしてこの小さな体に慰められ、生きる力を与えられてきたことだろう。
「…ムリさせてごめん、心配させてごめん……手放してやれなくて、ほんとごめん…っ」
「…ぁ、そんな…の…き、せく…だけじゃ、ない…っ」
ここから逃げ出したい。全てのしがらみから抜け出し、自由を手に入れたい。
そんなことを考えながら、結局は黄瀬から――彼らから手を離せずにいるのは、自分も同じなのだから。
途切れることのない喘ぎのせいで、まともに言葉を紡ぐこともできない黒子は、せめて想いが伝わるようにと必死に首を振り、黄瀬を強く抱きしめた。
「…黒子っち…黒子っち……っ」
黄瀬は泣きそうに顔を歪めながら、黒子を抱き締めかえし、耳元で囁いた――ごめんね、好きだよ――と。




「…黒子っち、大丈夫っスか?」
ぐしゃぐしゃに乱れたシーツの上、快楽の余韻に体を震えさせる黒子に、黄瀬は問いかけた。
心地の良い疲労と満足感に包まれ、そのまま眠りにつきたかったのが本音ではあるが、グッタリ辛そうにしている黒子をそのままにしておくわけにはいかない。我慢できず、その胎内に欲を吐き出してしまったのだから尚更だ。
「…風呂の用意してくるから、ちょっと待ってて」
すでに半分眠りの淵を漂っているのだろう、ぼんやりした眼差しで、それでもコクリと頷いてみせた黒子。
「…いい子」
その愛らしさに蕩けるような笑みを浮かべた黄瀬は、黒子の髪を撫でてやってからベッドを抜け出し、ガウンを身に着けた。
そのまま自室に備え付けられている浴室へと向かい、まずは自ら冷水を浴びる。
――体はまだ、黒子を欲している。しかしこれ以上ムリをさせるわけにはいかないので、頭を冷やそうと思ったのだ。
冷たいシャワーは火照った体にちょうどよく、その心地良さに黄瀬が目を閉じた時だった。
「…っ!」
耳がとらえたのは、何かが壊れるような物音。そして僅かに間を置いてあがった、小さな悲鳴だった。
黒子1人が立てた音とは思えないそれに、黄瀬は慌ててガウンに手を伸ばす。
(…しまった…っ)
らしくもなく、油断していた。久しぶりに黒子を抱いたせいか、すっかり安心し、気が緩んでいたのだろう。
――ここが敵に囲まれた場所だと、決して忘れてはいけなかったのに。
力を手にすればする程、地位が上がれば上がる程、それに比例するように増えていった敵。
そんな奴らが狙うのは、いつも1つだった――キセキの世代の唯一の弱点が黒子であると知る者は、少なくなかったから。
おかげで黒子は何度となく命を狙われてきたし、時には何人もの男たちに嬲られることもあった。
勿論、その度に自分たちの手で黒子を救いだし、相手には壮絶な制裁を与えてきた。
しかしだからと言って、それで黒子が味わった痛みが消えるわけでもない。
(…もう2度と、黒子っちには傷ついてほしくなかったのに…っ)
そして、自分たちの手から奪われることのないよう、その為に嫌がる黒子を第一線から退かせ、屋敷に閉じ込めていたというのに。
またしても黒子を失うかもしれないという恐怖を味わう羽目になり、その原因を作った色違いの瞳を持つ男への憎しみが湧き上がるが――いや、今は怒りに身を浸している場合ではないと、すぐに気持ちを切り替える。
「…黒子っち…っ」
黒子の名を呼びながら、勢いよくバスルームから走り出した黄瀬。その手にはすでに、ナイフが握られていた。
しかし――
「……え?」
次の瞬間、黄瀬の視界に飛び込んできたのは、壊された自室の扉。切り裂かれた天蓋のカーテン。そして、
「…青峰…っち…?」
乱れたベッドの上、抜き身の刀を手にした青峰が、黒子を押さえつけている姿だった。
そんな中、何より黄瀬の意識を引いたのは、黒子の口端からつたう、一筋の血。
その赤い色を目にした途端、己の中で何かがプツリと切れた音を、黄瀬は確かに聞いた。
「…青峰…っ、アンタ、何してんだ…っ!!」





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