4−1



髪型よし。服装よし。笑顔……は、ひきつりまくり。
…どんだけ緊張してんだ、しっかりしろオレ!
せっかく一か月以上前から申請していた休日なんだ。今日こそは長年想いつづけてきたあの子に告白しようと、念入りに計画を立てたんじゃないか。
さぁ、準備は万端。
降旗光樹、今日こそ男になってみせます!




外は、気持ちのいい秋晴れだった。絶好の告白日和だと、テンションが上がってくる。
そうだ、待ち合わせの時間までかなり余裕があるし、せっかくだから花でも買っていこうかな。
そんな思いつきのまま、足の向きを変えた。
花屋に行くには、裏道を使った方が早い。あまりガラのよろしくない場所だけど、こう見えて一応刑事なわけだし、そもそも、こんな朝方から悪さをする輩もそうはいないだろう。
「なぁ、そう嫌がんなよ。ちょっとお話ししたいだけだって」
「なー?別にとって食おうってわけじゃねーんだから。てか、どっちかっていうと、坊やにしゃぶってほしいかなぁ、なんて」
――と、思ったのになぁ…。
ほんの数メートル先。見覚えのある男たちが、嫌がる小柄な人影の腕をつかみ、ゲラゲラと下品に笑っている姿を視界におさめてしまい、思わず深いため息がもれた。
…なんだよ、チンピラが午前中から元気に活動してんじゃねぇよ。
正直めんどうなことになってしまったと思いつつ、刑事として、いや人として放っておくわけにはいかないと、男たちへ向かって行った。
あぁ、やっぱりあいつらだ。
置き引きだったりカツアゲだったり、あるいは今回のようなガラの悪いナンパだったり。
そう大したことができるわけでもない小物だが、その分威勢だけは人一倍なやつらなんだよな…。
たとえばここに火神あたりがいれば、顔を見せただけで逃げ出していくんだろうが、残念ながら今はオレひとり。警察だと名乗っても、なめられるのが目に見えている。
あーあ、こんな時、いつも思わずにいられない。オレも火神くらい背があって腕っぷしが強ければ、もっとうまく仕事がこなせるんだろうになぁ、と。
…なんて、現実逃避しててもはじまらないか。
いつも頼りにしてる同僚はいないんだ、一般人に大きな被害が出る前に、オレが何とかしなければ。
そう覚悟を決め、思い切って男たちに声をかけた。
それに「あ゛ぁん?」なんてテンプレ通りの反応を返した男たちはこちらを振り返り、そして――



「いてて…っ」
殴られた衝撃で、口の中が切れたみたいだ。
口内に広がる血の金臭さい味に、思わず顔が歪む。
…けっきょく、殴られるだけ殴られて、何もできなかった。
いや、結果として男たちは退散していったわけだけど、それだって、オレが火神の同僚刑事だと気づいたからで……情けないなぁ、オレ。
せっかく新調したスーツもボロボロになっちゃったし、ほんと今日はツイてない。
「…あぁ、もう、今日は告白すんのやめた方がいいのかな…」
「…あの、だいじょうぶですか?」
「うおぁっ!?」
立ち上る気力もないまま後ろ向きなひとり言を呟いていたオレに、突然かけられた声。
驚きすぎて、思わず情けない声をあげてしまった。
「…驚かせてしまってすみません。それと、助けていただいて、ありがとうございました」
あれ?このセリフから察するに、さっき男たちに絡まれてた被害者だろうか。
ずっと気配感じなかったし、とっくに逃げ出したものだとばかり。
…てか、おい。
「……男?」
そう、心配そうにオレを見つめる相手は、線の細い体つきと中性的な顔立ちをしているが、間違いなく男だった。あぁ、そういやさっき坊やとか言ってたっけ。
…あいつら、男もイケたのか。
別に偏見があるわけじゃないけど、この世の半分は女性なんだぜ、わざわざ同性に走らんでも――と常々考えていたオレだったが、ここにきて持論を変えざるを得なくなってしまったようだ。
…だって、目の前の人物を前にして、これだけ美人ならしかたないか、なんて思ってしまったのだから。
なんだよ、こいつ。
肌は白いし、目は零れそうなほど大きくて、睫も長い。まるで、お人形のようだ。
綺麗なうす水色の髪と瞳がまた、作り物めいた雰囲気をいっそう強調していて――って、あれ?
あれあれあれあれあれ?
オレ、こいつにめっちゃ見覚えがある気がするんですけど。
どこで見たんだっけ、いつ見たんだっけ。
思い出せそうで思い出せないというか、いや、むしろ思い出したくないというか……何でだ。
「……あれ?」
そこでそんな声をあげたのは、ぐるぐると考え込むオレをキョトンと見つめていた相手だった。
「…キミ、もしかして、火神君の同僚さんですか?」
お?火神の知り合いか?なら見覚えがあって当然か。
…でもダメだ、具体的なことは何も思い出せない。
「そうだけど……ごめん、どこかで会ったっけ?」
「いえ、火神君と一緒のところを見かけたことはありますけど、直接お話しするのは今回がはじめてですよ。確か、彼と同期なんですよね。えっと、名前は確かふる…じゃなくて…」
「降旗な。降旗光樹。…いや、でも意外だな。あいつ、あんま仕事場の話とかしないタイプだと思ってたから…」
「あ、いいえ、名前とか詳しい事は火神君に聞いたわけじゃなくって、赤司君情報です」
「へぇ、そうなんだ、あかし…」
―――――――――――――――――――え?
…ちょっと待て、今なんと言いました?
「あ…かし?」
「はい。赤司君です」
あかしくん。あかし。赤司。
――赤司征十郎。
「………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
何気なく口にされた名前の恐ろしさに、体の痛みも忘れて絶叫する。
同時に、相手の正体に遅まきながらやっと気付いた――気付いてしまった。
…うわぁ!うわぁ!どうしてもっと早く気付かなかったんだオレ!?
オレなんかが気軽に話しかけていい相手じゃなかったのに!
一緒にいるのを見られただけで、命が危なくなるような相手だったのに!
「…降旗君?」
お願い!オレなんかの名前よばないでください頼むから!抹殺されちゃったらどうすんだよ!
「…うぅっ、なんで帝王の寵姫がこんなとこにいるんだよ…」
あまりの恐怖に体から力がぬけ、ガクリと地面に突っ伏したオレに、慌てて駆け寄ってくる相手――黒子テツヤ。
……あぁ、これはもうダメだ。死んだよオレ。確実に死んだよ。
絶望に打ちひしがれながら、5年以上片思いをつづける彼女のことを思い浮かべた。
――ごめんよ、オレもうキミに会えないかもしれない。





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