※第三者視点

同じクラスの一氏くんは、女子に冷たいことで有名だ。
顔だけなら結構イケメンの部類に入ってもおかしくないのに、まあ学校内でも有名な『ホモカップル』の片割れで、いわゆる残念なイケメンとも呼ばれている。それでも顔がいいのは事実なので、密かに思いを寄せる女子だって少なからずいるだろう。
しかし彼はホモカップルの相方…金色くん以外の人間にはとことん冷たい。元々口が悪いというのもあるんだろうけど、自分に向けられる好意にはまるで興味がないらしい。勇気を振り絞った一部の女子の告白を、ことごとく切り捨てているという噂もあるくらい。その代わり金色くんには気持ち悪…こほん、有り余って仕方がないといったくらいの愛を叫び続けている。それはもう、毎日毎日、飽きることなく。その愛を周りの可愛い女子にも向けてあげればいいのにと、クラスメイトとしてほんの少し思わなくもない。

そんな女子に冷たいことで有名な彼には唯一の例外がいることもまた、周知の事実である。
名字名前ちゃん。彼女も同じクラスの一人なのだけれど、一氏くん金色くんのホモカップルとよく一緒に行動しているのを目撃されている。別にべったり一緒にいるというわけではない。彼女も彼女で友人関係は築いている、けれどふと気づくと三人で談笑している姿をよく見かける。
どうやら一氏くんとは幼馴染という関係らしい、ということを彼らと小学校からの付き合いである別のクラスメイトの証言で知った。なるほど、確かに「ユウジ」「名前」と呼び合う彼らは幼馴染という名前のつながりを持っていると言われても何も違和感はない。
そう、この幼馴染の存在が一氏くん唯一の例外的存在。
まず不用意に怒鳴り散らさない。多少の悪態をついているのは見かけるが、決して心のそこから思っているわけではなく、ただ単にそれは彼にとっては挨拶と同然のことなのだろうと思われる。彼の暴言を右から左に受け流して笑っていられる名前ちゃんも、なかなかすごいと思うのだけれど…普通の女子なら泣きそうなことを言われても平気な顔をして金色くんと話しているし。

まあ、そんな彼らの様子を見ているクラスメイトならば一度は思うであろうことがある。一氏くんと名前ちゃんは付き合っているのではないかということだ。私も最初はそれを考えた。確かに彼らは付き合っていてもおかしくない点が多々ある。金色くんが席を外していても一氏くんと普通に話をしている女子なんて彼女くらいだし、何より彼女と一緒にいるときの一氏くんはとても楽しそうなのだ。先ほどからつらつらと一氏くんについて述べておいて、もしかしてと思う人もいるかもしれないが、私は別に一氏くんが好意を持っているわけではない、決して。ただ人間観察が趣味のしがない女子生徒である。そして人間観察が好きで好奇心旺盛な私は、たまたま席替えで近くの席になった一氏くんに、たまたま名前ちゃんが一氏くんのところに来ていた時に、つい尋ねたのだ。

「一氏くんってさ」
「…なんや」
「名前ちゃんと付き合ってるん?」
「ハァ?」

間髪いれずに一氏くんが声をあげる。名前ちゃんも一瞬きょとんと目を丸くしていたが、すぐに声をあげて笑い出した。

「お前アホちゃうか。そんなわけないやろ!俺は小春一筋やぞ」
「ユウジは小春ちゃん大好きやもんなぁ」

にこにこと笑う名前ちゃん。その笑顔に偽りの色は浮かんでいないように見えた。浮かぶ表情の種類は違えど、当然だという顔をする二人に、ふうん?と首をかしげる。
はたから見たらどう考えても好き合っているように思えてもなんらおかしくないのに、本人たちの間ではそうではないということだろうか。まあ、何かのお話のように私自身が一氏くんに気があるわけでも、名前ちゃんと特別仲がいいわけでもないのでその辺はただの興味本位でしかないし、深くつっこむのも野暮な気がした。結局のところ、二人の間にある、絆の別名など本人たちにしかわからないものなのかもしれない。

「あっ、小春ちゃーん!」
「小春ぅ〜!寂しかったで〜!」
「ただいまぁ〜名前ちゃんっ…一氏はうっとい!離れや!」

席を外していたらしい金色くんが帰ってくると、まるで私に話しかけられたことなど忘れたように一氏くんの表情が一転する。笑顔で手を振り合う名前ちゃんとは正反対に邪険に扱われる一氏くん。めげずにすがりつく一氏くんに一層眉間のしわを深くする金色くん。そんな様子を楽しそうに眺める名前ちゃん。そんな彼らを、私は一歩離れたところから眺める。


そして今日も、彼らと私を取り囲む時間は平和に過ぎていく。






(2013/04/17)

title by 箱庭




×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -