たとえばの話。日吉がもし、氷帝学園の生徒ではなく、たとえば青学や立海の生徒だったとしても、私は日吉と出会えていたという自信はある。日吉がもしもテニス部じゃなかったら。テニス部ではなく他の運動部たとえばサッカーとか野球とか、運動部じゃなくても書道部とか、心霊研究部などという怪しげな部活に入っていたとしても、日吉の良さを見つけ出していた自信がある。日吉がもし古武術をしていなかったとしても、日吉の強さを知り得た自信はあるし、日吉が病弱で人より寿命が短いと宣告されていたってそばにいられる自信はあるし、日吉がもし女の子でも、もはや人間じゃなくて猫なんかの動物でも、下剋上下剋上などと言いつつ実は跡部部長のことが好きだったとしても、私は日吉を好きになっていた自信がある。まあ最後のたとえは日吉に怒られる前に取り消すとして、とにかく私はどんな条件つきであろうと日吉若という一人の人間と出会い、知り、そばにいて、恋に落ちて、愛せる自信があるということを言いたかったのである。言葉で並べることは苦ではない。しかしうまく相手に伝わるかどうかというのは難しいところである。私自身の欠点は日吉に対する愛をうまく言葉で完結に言えないというところだと思う。日吉と私はずっと一緒にいた。私たちがお互いをお互いに大事に過ごしてきた期間の長さは何物にも代え難い大切なものだけれど、こういう時くらいはちゃんと言葉にしようと思ったのに、なんだかやっぱり回りくどい言い方になってしまった気がする。どんな日吉だって、私はこれまでもこれからもずっと好きでいられる自信があるし、日吉が私を好きでいてくれるだろうということも、自意識過剰だと言われようともはっきりと断言できる。それくらい、私は日吉のことが好きだ。





ふと、顔をあげた日吉と目が合う。中学の頃よりも随分と伸びた背、ほんの少し見上げるように視線が合うと、お前にしては上出来だ、と日吉は笑った。彼の手の中には、昨夜睡眠時間を削ってしたためた、薄い桃色の便箋。並ぶ字は特別綺麗なわけではない私の字。いつも難しそうな顔をしている日吉が笑った顔なんて珍しい、なんて思ったことを口にしたら軽く頭を小突かれた。

「ただ、」

日吉が自分で小突いておきながら同じところをゆっくりと撫でた。綺麗にセットしてもらった髪をもう一度なでつけるように触れる指先がひどく暖かく感じて、思わず頬が緩む。

「いい加減…もう名前で呼んでくれてもいいんじゃないか?」

今日からお前も日吉だろう。
言いながら目を細めた彼はゆっくりとした速度をそのままに両手で私の両頬を包んだ。いつの間にか私が渡したそれは元あったようにしまわれて、彼の白いジャケットのポケットの中だった。

若、そう呼べば彼はまた嬉しそうに笑った。近づいてくる顔を拒む必要などどこにもない。彼とお揃いの、いつかの私が憧れた真っ白なそれを身にまとった私は、今、彼と共にこれから先の永遠を誓う。


それははじまりのエピローグ

(2013/03/30)




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