久しぶりに謙也の家にお邪魔してみたら、当の本人は自分の部屋で気持ちよさそうに寝ていた。只今の時間、午前11時。まあ時間帯的にはお昼寝という名前にふさわしいには違いないけれど、人を呼んでおいてこれはないわ、とつきたくなるため息を無理やり飲み込んで、しかし飲み込みきれなかった小さいため息がはぁ、と口から溢れた。

「名前ちゃん来たし俺遊びに行ってもええ?」

兄ちゃんよろしくーなんて言いつつ、この家にやってきた私を中へ入れてくれた翔太くんは私と入れ違うように遊びに行ってしまった。もしかして気を遣われたのだろうか。いやでも翔太くんのことだから自分の兄が無用心にも寝入っている間に出かけるのもはばかられただけだろう。終業式が終わったばかりで彼も遊びに行きたくてうずうずしていただろうに、もう少し早くくればよかったかな、なんて思いつつ、いってらっしゃい、と謙也よりも幾分か小さい背中を見送った。

「…ほんっと、間抜けな顔」

眠りこけている謙也の顔なんて、数え切れないくらい見てきたし、それだけの長い時間を幼馴染という関係上一緒に過ごしてきたわけで、気持ちよさそうに眠る謙也の間抜け面はしかしどこか安心できる。でもやっぱりせっかく久しぶりに家まで来たのに謙也本人の寝顔だけを見て満足できるほど私は人間できていない。実に暇である。
寝ている謙也の頬をむにむにと触ると、言葉にならない声をむにゃむにゃ言わせながら眉間にシワが寄った。少し身じろぐと、うっすらとその瞼が薄く持ち上がった。

「…名前?」
「おそよう。自称スピードスターにしてはえらい遅い起床ですね」
「!今何時や?!」
「11時半過ぎた」
「なんやて?!」

ガバっといきなり起き上がるものだから危うくおでこがごっつんするところだったけれど、そこは私の反射神経が物を言った。よく頑張って反応してくれた私の神経に感謝。脱色した髪をがしがしと掻きながら、ばっちり飛び起きたわりにまだ眠そうな目をしてあーとかうーとか言ってる謙也。

「…ほんますまん。ついうっかり寝過ごした」
「ほんとうっかりだよね。別にいいけど。謙也のアホみたいな寝顔じっくり観察できたし」
「はあ?!見とったんか?!起こせや!ちゅーかいつから、」
「かれこれ30分ほど前から」
「翔太は?!」
「翔太くんなら私が来たらさっさと遊びに行っちゃったよ。弟より遅く起きるとか兄としてどうなの」

ぎゃーぎゃーとうるさい謙也の頬をつまんで伸ばすといひゃいにゃにふるんにゃと何言っているのか全くわからなかったけれどとりあえずうるさくはなくなった。にしても意外とよく伸びるほっぺたである。

「…何しよるんや…」
「謙也のほっぺたやわいね。面白い」
「俺はちーっともおもろないわ」

ちょっとだけ赤くなった頬に手をやりながらちょっとだけむすっとした謙也が可愛いと思ってしまう私も、なんだかんだとやっぱりこの幼馴染のことが大好きなんだよなあなんて再認識してしまう。幼馴染というか、まあ、つい先日付けで幼馴染という関係性以上の何かになったわけなのだけれど、こういうやりとりは幼馴染だけの間柄だった頃と全く変わらないと思う。
そういえば今日一番最初に言おうと思っていたことを言うのを忘れていた事に今更ながら気づいた。人のことは言えない、私も相当なうっかりさんだ。謙也、と名前を呼べば、なん?とすぐに返事が帰ってくる。未だスウェットジャージのままでいる謙也の首に両腕を回してぎゅっと抱きつくと、一瞬焦るような気配。このくらいでびっくりしちゃうからヘタレなんて言われちゃうんだよ。

「誕生日おめでとう。大好きだよ謙也」

まあそんな彼のことが好きな私も大概変わってるんだろうな。趣味が悪いッスわ、先輩、なんて言ったピアスだらけの後輩の言葉を思い出した。
腕を緩めて謙也の顔を覗き込んでみる。私が引っ張ったから、という理由にはならない、頬が少しだけ赤くなっている。ちょっとだけ驚いたように目を見開いていたけれど、すぐに嬉しそうに細められた目。ありがとう、と笑った謙也の顔はやっぱり私の大好きな幼馴染の顔で、私の大好きで大事な人の笑顔だと思った。



(2012/03/17)
happy birthday!




×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -