「君、もう帰るのか?」
「氷上くん。」
放課後になり、部活に忙しい生徒達はぞろぞろと教室から出て行った。
美奈子がカバンに教科書を入れていると、ふと横から声がかかった。
「ううん、これから勉強しに図書室へ行くとこ。」
「そうか、関心だな。なら、その...い、一緒に勉強しないか?今日は生徒会が休みで時間があるんだ。」
「えっいいの?」
「ああ。君が良ければだけど。」
学年トップの氷上はすぐ帰宅して勉強を始めるものだと思ってたから、一緒に出来るなんてラッキーだ、と美奈子は思った。
「じゃあ、たくさん教えてもらおっと!」
「あ、ああ!なんでも聞いてくれ。」
氷上とは休日に2人で遊んだりよく一緒に帰ったりするため、とても仲が良いという自覚があった。実際、氷上がそばにいるおかげで勉強に対するモチベーションも上がり、最近は成績が徐々に上がってきていた。
放課後の図書室は、ちらほら勉強する生徒や本を読む生徒が机を使っていた。
氷上と向かい合って座り、教科書とノートを開く。
「氷上くん、この公式の応用が解けないの。」
「ああ、それはね....」
氷上の説明はわかりやすい。優しい声色で、スッと頭の中に入ってくる。
「すごい、氷上くんの説明って本当にわかりやすいよ。ありがとう。」
「それならよかった。こっちも説明すればその分勉強になるからありがたいよ。」
氷上は微笑むと、またノートへ目を移した。
美奈子は氷上が下を向く姿を見てふと、意外と睫毛が長いんだな、と考えていた。
そして、ノートの端にシャーペンで書き、氷上のノートをとんとんと指で叩く。
〈氷上くんって、まつげ長いね(^^)いいな〉
美奈子からのメッセージを読んだ氷上は、フッと軽く笑った。そして、今度は自分のノートの端にシャーペンでカリカリと書き出した。
〈君も十分長いじゃないか。〉
ノートの端に書いたため、美奈子は読むために顔をノートに近づけた。そして、氷上のほうを向くため顔を上げた時、
「.....!」
「......っ」
予想外の顔の近さに、互いに驚いた。
氷上は少し顔を赤くしながら、それを振り払うようにシャーペンを握り直し勉強を再開し始めた。
(...びっくりした。)
そんなことを思いながら、美奈子も慌てて座り直し、シャーペンを握ってノートに計算式を書いていく。
(変な、感じ)
数学に集中出来なくなって、ふと氷上のほうをちらっと見る。氷上はいつもの涼しい顔に戻っており、淡々とノートへ文字を書いている。
(あれ、私...)
心臓の動きが、速まるのを感じた。
氷上とは、よく遊ぶしそばにいるのは今日だけじゃないのに。
氷上のことを今までどう見ていたんだろう。
美奈子は、ノートの隅にまたメッセージを書き始めた。ただただ、今は氷上を見つめていると心臓が苦しくて仕方がなくなってしまった。
〈ねえ、氷上くん_________
氷上のノートを、指でとんとんと叩いた。
END