イエッサー!



「イエッサー! ヒソカ!」

 どうしたんだろうねアリスは いくらボクでも理解に苦しむよ

 ソファに腰掛けたまま、キッチンに立つアリスを横目でチラリと覗いた。前髪の隙間から見える切長な金色が、いつもより幾分か穏やかさを含んでいるのは今日のヒソカがオフだからだろう。
 面白そうなこともないしと、なんとなく気まぐれにアリスの家に顔でも出すかとこの部屋にきた昼下がり。「コーヒーと紅茶どっちにする?」そう聞かれて「コーヒーでお願いしようかな」と答えたところに突然のイエッサーだ。
 コポコポと音を立てて注がれるコーヒーの香りが湯気と共に漂い、両手にカップを持ってやってきたアリスが隣に座った。お礼を言って片方のカップを受け取れば「どうぞ」と返ってくる。

「イエッサーって承知しましたじゃないのかい?」
「そうだよ」
「突然どうしたんだい?」
「昨日見た映画が面白くて」

 ああ、なるほどね

 どうやら見ていた映画に影響されて使ってみたくて仕方がないらしい。ハマったらとことんそれを楽しみたがるアリスのことだ、きっとこの後も事あるごとにその映画で出てきたネタを挟んでくるのだろう。それならばと、ヒソカは緩やかに口の端を吊り上げた。

「ふぅん……じゃあ今日一日それで過ごすといいよ
「え、いいの?」
「ごっこ遊びがしたくてたまらないんだろ? その代わり全部にそのイエッサーをつけておくれよ
「……っイエッサー!」

 嬉しそうに片手で敬礼のポーズをとって、声高々に“承知しました”と告げるアリスはご機嫌で気づいていない。たったいま、オフの奇術師の玩具が見つかってしまったことに気づかない。穏やかだったはずの目元は妖しい三日月に変わって、くっきりと弧を描く笑みは悪巧みのそれだ。

「楽しめそうだ
「うん、ヒソカが飽きたらやめるから言ってね。そうそう、映画の内容はね……」

 いつ気づくだろうね

 ニコニコと笑い内容を説明しだすアリスを眺め、ヒソカは喉を鳴らした。ほどよく相槌を打ちながらも、クツクツと揺れる喉からテノールの音が漏れ出ている。
 この男相手に、この男が飽きるまで“承知しました”と必ず返すという事の重大さ。それの意味するところ。

 さぁ、なにをお願いしようか


パチパチ👏
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