空から見える景色

※銀八side




神楽と廊下で別れて歩いている途中、沖田に呼び止められた。
「先生、ちょっと」
廊下を満たす殺気に、近くを歩く数人の生徒が青ざめて教室へとかけていく。
まぁ生憎、これくらいの殺気で怯むほど俺は弱くないけど。

むしろこんな風に全力で敵対視されると愉快だ。
「何?」
「チャイナと、何話してたんでさァ」
「何って、そんなの聞いてどうすんの」

きっとこいつはこんな風に神楽を構って、期待させて、傷付けてきたんだろう。別に俺が神楽に恋愛感情を抱いている訳じゃない。けれどあの屋上で神楽は忍ぶように、けれど忍びきれないように泣いていた。かわいい自分の生徒があんな風に泣いていて気分がいいはずがない。

沖田は質問に答えられないのか、苦虫を噛み潰したような顔でうつむいている。
俺はその頭に向かって笑って最初の質問に答えた。
「恋愛相談だよ」
「え?」
「神楽、好きな奴が出来たんだってさ」

沖田はぽかんとした顔でフリーズしている。キャラ崩れてんぞ。
この顔を写真で撮ったらきっと儲かるんだろうなぁなんて先生にあるまじき事を考えているうちに、沖田の呪縛は解けたようだ。
「その、相手って、」
「はぁ?言うわけないでしょそんなの。プライバシーに関わるし」
お前だよお前、と言いたくて笑いをこらえる。多分神楽が今まで傷ついた分には全然足りない。
せいぜい傷付いて悩んで足掻けばいい。ハッピーエンドになるかは本人達次第だけれど。

「……あんたは、」

言わんとすることは分かった。

「俺は、俺の生徒をみんなこよなく愛してるよ」


その答えに、沖田はまた悔しそうに顔を歪めて教室へ戻っていった。

これから神楽は多分今まで以上に俺を頼ってくるだろう。
神楽にとって俺は、自分の思いを吐き出せる唯一の相手だ。
それを見るたびに面白くない気持ちになるはずの沖田が自分の気持ちに気付くのはいつになるんだろう。
気付かずに傷付けるのはしょうがなくなんかない。ただ自分の気持ちに気付こうとしない怠惰だ。


職員室に入ると、話の一部始終を聞いていたのか、服部に苦笑された。
「お前、容赦ないよなぁ」
「だってほら、俺もドSだから」


しょうがないよね、うん。














苛め尽くされる前に気づくといいね。沖田くん。
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