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俺が沖田を好きな事は誰にも言っていない。

だからきっと銀八の言う『何か』とは喧嘩か何かをさすんだ。いやでも沖田と喧嘩するなんて日常茶飯事だし今さら気にするのはおかしい。となると銀八のは結局何が言いたいんだろう。

「な、何が言いたいアルか銀ちゃん……?」
「だから、沖田くんと何かあったのかなって」
だからその何かって何だ!
「何って、何もないアル」
「そう?俺はてっきり沖田くんに押し倒されでもしたのかと」
「!?」

我が担任はいきなり何を言い出した。糖分の取りすぎで脳みそが甘くふわふわになってしまったのか。

「アイツは男アルヨ?何で俺を押し倒すなんて流れになるアルか」

ははは、と乾いた笑いを漏らしても、銀八は笑わなかった。冗談で言ったわけじゃないようだ。

「お前はそういうの、気にしないタイプだと思ってたがな」
「……」

気にしないに決まってる。なんたって当事者みたいなもんなんだから。
でも世間はそれを認めてはくれないから。冗談としか考えていないから。
隠すしかないんだ。

「好きなんじゃねーの」

沖田くんのコト。
銀八はそう言ったっきり話さなくなった。こっちの反応を待っているんだろうか。
もしかして屋上に来たのも、俺が話しやすい為の配慮だったのかもしれない。


この人は言っても大丈夫なんだ。
そう思ったら今まで誰にも言えなかった秘密は自然と溢れ落ちた。涙と一緒に。全てを話しても銀八は軽蔑なんかしなくて、いつもみたいにポンポンと頭を優しく撫でてくれて、止まりそうだった涙がまた溢れてきた。
今まで溜め込んできた何かが落ちていくようで、心が自然と晴れていくのが分かった。



銀八は優しく笑う。
「随分我慢してたんだなぁ。単細胞のくせによ」
「単細胞は余計アル」
「沖田くんもさ、」
「?」
「案外、気にしないコだと思うよ。っつーか、」

その後の言葉を銀八は言ってくれなかった。
昼休み終了のチャイムが鳴り、二人で屋上を後にする。
「銀ちゃん」
「ん?」
「ありがとう、アル」

あぁ、と銀八は無表情で職員室へと歩いて行った。不器用で優しいところは少し沖田に似ている。
心が暖かいのが心地よくて、微笑みながら俺も午後の授業へと向かった。





曇り空から差す、









「気にしないコっつーか、俺、沖田くんにめちゃめちゃ睨まれてるんだけどね」


銀八が小さく苦笑した声は、誰にも聞こえる事はなかった。




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