曇り空から差す、

あり得ない夢だという前置きで言った言葉は遠慮なく俺に突き刺さった。


『お前が俺に告白する夢』

分かりきっていた事だ。恋愛対象になんか入れない事くらい。分かっていた事だ。沖田が自分を好きにはならない事くらい。冗談にしかならない想いだって事くらい。
それでも本人からそれを言われるのは辛かった。まるで背中からバッサリと刀で切られたような気分だ。


そこから後の会話はあまり覚えていない。取り繕うように笑って、変な間を取り繕えて安心してからはただ虚しい作り笑いをするので必死だった。


このままじゃ駄目だ、と自分が告げていた。これだけでこんなに辛いなら、これから先喧嘩友達としてもやっていけなくなる。出来ればそれは避けたかった。

「少し……離れるアルか…」

一夜寝ずに考えた結論だ。なんだかそれは付き合っているカップルが喧嘩してたどり着いた結論のようで、俺は苦い気持ちになりながら苦笑した。


***

授業が終わった瞬間、俺は銀八に飛びかかった。
「銀ちゃん!」
「うぉ、なんか最近やたらお前絡んできてない?」

気のせいアルヨ!と笑いながら、内心は冷や汗ものだった。
距離を置く結論をしてから一週間。明らかに避けていると気づかれない程度に、しかし確実に俺は沖田を避けていた。目が合いそうになるたびに逸らして、話しかけられる前に、別の誰かに話しかけた。


「今日、昼休み職員室遊びに行っていいアルか?」
「あぁ?お前また俺のとっておきのパフェ食う気だろ。駄目だ駄目だ」
「どうしても…?」
「ヤローに上目遣いされてもな……。…まぁ別にいいか」

ため息をつきながら結局許してくれる銀八は優しい。にっこりと笑ってお礼を言うと頭をポンポンと撫でられた。

これで昼休みは少くとも沖田と関わらなくて済む。

「とりあえずひと安心アル」
「何がでさァ」
「いやだから、とりあえずこれで――ってサド!?」

いつの間に目の前に。
沖田は笑顔だが何か苛立っているようだ。普段避けているだけに、会話はやや気まずい。

「最近やたら銀八と仲がいいじゃねェか。何かあったんで?」
「別に何もないアルヨ」

合いそうになる瞳を慌てて逸らす。
それにまた苛立った沖田には気づかずに。
「またって、」
「え?」
「またって銀八言ってやしたけど、んな沢山アイツのとこ行ってんのかィ」
またって、銀八のパフェを食べたのは一度だけだ。遊びには大分行ってるけど。
「行ってたとして、それが何アルか?」


俺が銀八の所に行こうが行くまいが、沖田に支障はないはずだ。以前からも常にベッタリ一緒だった訳ではない。
「なんでそんな事聞くアルか?」
沖田は聞かれた質問には答えず……というか、答えられないようだ。
「なんでって……なんで?」

「俺に聞くなヨ」
俺に聞かれても、都合の良い、……もしかして妬いてくれてるのか、とかそんな事しか考えられないから。
痛々しくて思わず自嘲してしまう。


「とにかく、俺がどこに行こうと、お前には関係ないアル」
「っ、でも――」

沖田が何か言うのを遮るようにチャイムが鳴って、俺は逃げるように席についた。
とは言っても、隣だけど。


さすがに授業中は逃げられないし、露骨に無視も出来ない。
けれど以前の沖田ならそこまで干渉はしてこなかったし、良くてちょっかいをかけてくるだけだった。
…そう、以前は。

「チャイナ」
「何アルか」
ここの所、沖田は銀八の授業以外の授業はすこぶる機嫌が良い。先程の不機嫌はいつの間に治ったのか、無表情だが相当嬉しそうだ。何か授業中に良いことでもあるんだろうか。

「何でもない」
「じゃあ呼ぶなヨ」
「おう」


そしてそれからまた間を置かずに「チャイナ」と呼び掛けてくる。
嫌じゃないから迷惑な事この上ない。人が近づかない努力をしているときに無意味に呼び掛けてくるな。俺の努力が水の泡になってしまうだろ。
さすがにうるさかったのか服部先生に注意されて、沖田はしぶしぶ黙ったけれど機嫌は悪くならなかった。

シャーペンを持つ手が通常運転に戻る。沖田があんなふうに、嬉しそうに話しかけてくるなんて滅多にないから無意味に力が入ってしまっていた。危うく愛用のシャーペンを一本、埋葬しなければならないところだった。



俺が女だったら確実に期待してるよな、と思う。自意識過剰とかじゃなく。
こいつは天然タラシなんだ、絶対。


***


昼休み、銀八の所に行く前にも何やらまた苛立っている沖田に呼び止められたが、適当に返事をして銀八のところへ向かった。
「銀ちゃん!」
ギシギシと年期を感じる職員室を開ける。
そのまま中に入ろうとしたら呼び止められた。

「今日は屋上気分だから、屋上行くぞ」
「先生が屋上なんか行っていいアルか?」


文句があるなら来なくていい、なんて言いながら先に歩き出す銀八を追う。
今日は気持ちのいい風がふいていて、丁度屋上に行きたいと思っていたところだ。


屋上へつき、扉を開けると誰もいなかった。

「お、ラッキー」
「いい天気アルな!」

清々しい空を見て、暗くなっていた気分も晴れそうだと思った。
屋上の影になっているところを見つけて、二人で腰かける。
急いで弁当箱を開けてがっつき始める俺に、銀八は苦笑して甘そうなパンをかじった。

「美味そうに食うよなぁ」
「美味いんだから当たり前アル!」
そりゃそうか、と銀八は笑う。

「なぁ神楽」
「ん?」
「沖田くんと何かあったの?」
「ぶっ!!」

貴重な昼飯を吹き出してしまったことより、今の質問の意味が分からずに固まった。




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