鈍感には直球で。

梅がそろそろ散り、白木蓮が花を開く冬の終わりと春の始まりの混ざりあった季節。誰もいない教室で、俺は神楽に言った。


「お前俺と付き合え」

そういう自分の声は柄にもなく少し緊張に帯びていた。
目の前のオレンジの髪の少女は怪訝そうな――、否、全力で嫌そうな顔をしている。俺のガラスのハートを打ち砕く気かコイツ。


「お前に付き合うなんて真っ平ごめんアル」
「お前に拒否権なんか」
ねぇよ、となんとか強気にいこうとしたら遮られた。
「ちなみにあれ、どうせ体育館裏とか校舎裏とか人の少ないとこダロ」

陰湿で嫌味なお前らしいアル。とどうやら真意が伝わっていないらしい。
「その付き合うじゃねぇよ」

「は?じゃあ何アルか?」

それはその、と口ごもる。一度付き合えと言ったのにまた言い直さなくてはならないのか。
…いや、そもそもコイツがスーパー鈍感少女だなんて事分かっていたじゃないか。
一度息を吸って一気に言おうと口を開いて、


「俺はお前が、」
「あぁわかったアル!」
「は?」

神楽は謎か解けたように笑顔になった。ムカつくのに可愛いとか相当目の前のクソ鈍感馬鹿チャイナにヤられてる。

「竹刀と竹刀のぶつかり合い、“突き合え”ダロ!」
「…違うに決まってんだろクソチャイナァ!」

どこの誰が告白の付き合えを竹刀の突き合えと勘違いする馬鹿がいるんだ。今この瞬間にバッサリ竹刀で脳天を斬られたような気分だ。
どんな鈍感なヒロインだってソレはないだろ普通。
というか望みが少しでもあればこんな勘違いされないんじゃねぇ?


少し考えたらそれが答えのような気がした。
結局望みがなかったってだけの話だ。


「……もういい」
「はぁ?お前が呼び出したアルヨ!」
「知らね。クソチャイナ」
「はぁああ!?」

俺は完全にふて腐れていた。望みがないならもう言ったって言わなくったって変わらないか。
虚しくなってきて窓の外を眺めると、舞い上がる梅の花と空の青のコントラストが綺麗で思わず目を細めた。
神楽もつられるように窓の外を見て、その景色に魅力されたのか叫んではしゃいだ。
「すっご、キレイアルー!」
「そうだねィ」

ここで、少なくともお前よりは綺麗なんて言わずにお前の方が綺麗だよとか言えたらコイツは少しくらい俺を意識したのだろうか。


風が神楽の髪をふわりと持ち上げる。気持ち良さそうに笑う神楽に肺だか心臓だかが掴まれたように苦しくなった。


宙ぶらりんな今の気持ちのままいるより、思いっきり玉砕したほうがまだ後腐れないような気がする。
「チャイナ」
「ん?」
神楽がこちらを向く。
俺はもう一度神楽を見つめた。
付き合え、じゃなくて最初からこう言えば誤解は招かなくて済んだんだ。



「俺は、お前が好きだ」
「………は?」


神楽は今までとは違い、嫌そうな顔も怪訝そうな顔もせずに、ただ目を見開いていた。それだけ純粋におどろいたんだろう。


「チャイナ?」
「お、おま……」


状況が呑み込めた瞬間に馬鹿にされるか嫌そうな顔をされると踏んで諦めていた俺は、神楽の表情の劇的な変化に息を飲んだ。



肌の白い神楽の頬が、赤い梅のソレより一気に赤く色づいたのだ。
俺の心臓は期待の色を込めてドクドクと鳴り始めた。



鈍感には直球で。


どうやら片想いは卒業できたようです。
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