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告げた途端、体の力が抜けるのが分かった。
今まで背負ってきた気持ち全てがとれたからだろう。笑うことも出来なくなって、目を逸らす。
「さよならアルな、これからは教室でも、話しかけたりしないから安心しろヨ」
少なくともコイツは恋愛相談なんてしようと思うくらい、俺を友達だと思っていてくれたのだろう。
それを裏切ってお前が好き、なんてコイツの方がびっくりしたはずだ。謝ってこの場を去るのが最適なのかもしれない。
だけど、
じゃあな、もごめん、も。
伝える余裕なんかなくて。
こぼすつもりもない涙が零れ落ちるのを自覚しながら、俺は背中を向けて走り出した。
「待て」
「――っ、!」
否、走り出そうとして、結局それは叶わなかった。背中から回された腕が、強く俺を締め付ける。
抱き締められている、と気づいても何も出来なかった。
何、なんで。
「行くな、チャイナ」
ぎゅっと強くなる力に、心臓が軋むように音を立てる。自分の中から、いやだ、いやだと声がして、また涙がこぼれた。
……離れたくない。
強がりのはがれた、どうしようもないこれが俺の本音。
だってどうしたって、沖田が好きなんだ。
「チャイナに対するこの感情に対して、俺はあまりに中途半端だった。……でも、もう違う。友達にこんな感情持たない事くらい、俺にだって分かりまさァ」
「おき、」
「――好きでィ」
…………は?
「チャイナを、恋愛の対象として」
何が起こったのか、俺には全く分からなかった。
今の言葉の意味は、何。
「好き、チャイナが好きでィ」
「……っ、!」
心の中で、なんで、だってを繰り返す。好きな子が他にいるから相談してきたんじゃないの。
男は好きにならないから、あの日あり得ない夢と言ったんじゃないの。
「友愛かそうじゃないのか、俺ァ分かんなくなってた。でも、違う」
「沖田、」
「銀八が、お前に好きな奴がいるって言ったとき、すげぇ嫌だったんでィ。そん時はわかんなかった。だけどアレも嫉妬でさァ。もし、その相手が俺だってんなら、」
沖田は、そこで一度言葉を切って、抱き締める腕を緩めて自分の方を向かせた。赤く揺れる、真剣な瞳が自分をうつしている。
その瞳で、沖田が本気で言ってる事が分かって、無意識に体が震えた。
「俺と付き合え、……神楽」
そう言ったきりまたぎゅうぎゅう抱き締めてくる。首筋に沖田の髪が当たってくすぐったい。
恐る恐る背中に腕を回すと、さらに強く力が込められて、俺はまるで勝負するように思い切り抱きしめ返した。
「好きアル、」
「うん」
「お前なんかよりずっとずっと前から、お前がすきアル」
「……チャイナ」
少しだけ沖田の力が緩んだ。その隙に、背伸びをする。
「付き合うなら、覚悟するヨロシ!」
「そんなもん、とっくに……っ!」
できてまさァ、そう言いたかったであろう沖田の唇に、自分のそれをくっつけた。
柔らかな感触に目を細めて、すぐに離す。
ぽかんと間抜けに口をあける沖田が珍しくて面白い。
照れも混じって思わずクスリと笑うと、急に真顔になった沖田がまた唇を重ねてくる。今度はさっきとは比べ物にならないくらい長く深かった。
「………っは、」
苦しくなったところで唇が離れていったので、俺は大きく息を吸う。
「肺活量ないんじゃねぇの、チャイナ」
「そういうお前だって、しっかり息切れしてるアル」
「離れたくなかったんでィ」
さらりと恥ずかしげもなく言われた言葉に思わず顔が赤くなる。けれどそれを悟られたくなくて、さりげなく目を逸らした。
「チャイナ」
耳をくすぐる、甘い声。
「好きでさァ」
その言葉が嬉しすぎて、俺はただもう一度沖田を抱きしめ返す事しか出来なかった。
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