side神楽




好きは、一つじゃない。



それが今まで俺を、悩ませていた事実だ。



一つなら、悩んではいなかった。
罪悪感を感じたり、それでも好きなんだって実感させられたり、でも言えないんだって、泣いたりしなくて済んだんだ。



だけど。



……でも、もしかしたら。







***



『話がある』


朝、一日ぶりに顔を合わせて、目が合った瞬間口にした言葉は同じだった。しかも、やたら真面目くさった顔をして。



俺は今日、サドに告白する。


……んで、スッパリ振られて、気持ちごと喧嘩友達に戻るんだ。



俺は訝しげに首を傾げつつ、本題に戻った。

「屋上に行きたいアル」
「奇遇だなァ、俺も屋上がいいと思ってたんでィ」


そんなところまで一緒かと内心苦笑する。普段行き違いだらけのくせに、たまにこういうところはシンクロしてた。
もしそうなら、いっそ内容までシンクロしていればいいのに、なんてそれは流石に望みすぎか。


お互い無駄なお喋りもすることなく、屋上に向かって歩き出した。
教室は他のメンバーもいたのに、何故か静まり返っていた。




***



屋上の扉を、サドがゆっくり開く。
ゆっくりと流れる雲を眺める余裕は、今の俺にはない。
決意したからといって、緊張はするのだ。


「何ボケッと突っ立ってるんでィ」


緊張を解すように何度か深呼吸をして、サドに呼ばれた日陰に歩いていく。
一歩一歩近づくたびに、この関係が変わってしまう未来をひしひしと感じていた。


そして日陰に二人腰かけ、沈黙。


『なぁ、』


口を開けば、同時にかぶって苦笑する。何故か気まずそうに目線を逸らすサドを俺は促した。

「言えヨ、お前から。俺はその後でいいアル」
「……分かった…」

そうしてまた、沈黙。サドがこんな風に言いづらそうにしているのは珍しい。姉絡みの話か何かだろうか。

やっとその口が開いた時、今度は自分の開いた口が閉じられなくなった。




「…チャイナ、好きってなんでィ」
「……は、?」
「あ、恋愛感情の方」


ますます一体何のことやら、だ。
何故それを俺に聞く。いるだろ身近に彼女持ちマヨラーが。



しかしなまじ告白しようとしていただけに、凄まじい動揺が走った。



一瞬、言う前にバレて釘を打たれているのかとも考えたが、どうやらそうじゃないらしい。いや、違ってもこの状況はさして変わらないけれど。


「どうしてそれを俺に聞くアルか?」


大体俺は恋愛相談を受けるような立ち位置じゃない。


「え?……あ、」
「?」


サドがしまったというように表情を歪めている。本当もう何なんだびっくり大作戦か何かか。
けれどそれはどうあがいてもつまり、恋愛感情なんか抱かれてないって事で。
そんなの初めから分かっていた事だけれど。それでも。
普通に告白して、普通に断られたかった。





好きって何、ね。





ああ、もういいや、そう思った。



その瞬間、頭の中の緊張や葛藤がプツリと切れた。



「今のはなかった事に…」
「苦しくなるアル」

立ち上がり、サドを見下ろす。

「チャイ……っ!?」

そのまま、サドを踏み潰そうと、足を振り上げた。
しかし足を振り下ろしても、固い地面の感触しかない。ま、それくらいは予想していたけれど。


「いきなりなにすんでェ!」


紙一重のところで攻撃をかわしたサドは、更に追撃を重ねる俺の攻撃を次々避けていった。さすがに睡眠不足が解消されただけあるか。

俺はサドが避ける方向を予測し、それが当たった瞬間サドの胸ぐらを掴んで睨み付けた。
そして、噛みつくように叫ぶ。


「胸が苦しくて、痛くて、相手に触ると幸せで、たった一言で落胆して期待して。それでも好きでいることを止められないアル!」


叶わない想いだと分かっていてさえ。


「チャイ、ナ…」
「本当にムカつくアルナ、クソサド。まあいいアル。最後にお前を嫌いになれる理由が出来たと思えばいいネ。全く俺は前向きアル。ネチネチじゃない俺に感謝するヨロシ。……なぁサド、俺は、」


力を抜いて、胸ぐらを掴むのも止める。
そして睨み付けるのを止め俺は笑った。
こんな形になったとはいえ、ずっと好きだった相手に、最後の言葉を言うために。



「お前が、サドが好きアル」







沖田の目が見開かれていく様子だけが、今の俺の景色だった。






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