「今日は沖田くんは休みだと連絡があった」


銀ちゃんの間の抜けたような声でああやっぱりな、と思った。
昨日の今日だからか、やはり今日はサドは休みだった。普段やりあってるだけに、隣の席が空いていると微かに寂しさを感じて、胸が軋む。

昨日、サドの腹の痣は紫を通り越して青くなっていた。朝起きたら、寝起きで頭の回らないサドはびっくりするんじゃないだろうか。

「じゃあこれでSHR(ショートホームルーム)は終わりにする。神楽は、昼休み先生のところに来なさい」
「っ!先生まさか、俺がこの間先生のパフェ食べちゃったことに気付いたアルか!?」


ビックリしたように目を見開くと銀ちゃんはもっと目を見開いた。というより目くじらをたてた。


「あれはお前かコノヤロー!先生があのパフェを食べるのどれだけ楽しみにしてたか数時間教えてから膝詰めで説教してやる!」
「半分は土方がマヨつけて食ったアル」


適当な事を言うと土方がギョッとしたような表情をした。当たり前だ、土方は何も知らないのだから。


「多ー串ー君ー?」
「いや、先生、俺その時間部活…」
「問答無用ォオ!」

いつもは死んだ魚の目をしている銀ちゃんの目がきらめき、視界に捉えるのがやっとのチョークが豪速球で土方目掛けて飛んでいった。


ただ土方も負けてない。土方は思わず右手に握っていた何かで自分を庇う。チョークが土方に当たることはなかった。
だが。


「俺のマヨがぁああ!」


土方が右手に持っていたのは土方専用の自家製マヨネーズだった。マヨネーズには無惨にもチョークが突き刺さっている(どんな威力で投げればチョークがマヨネーズに刺さるんだ)。銀ちゃんはそれを見越していたのかニヤリと笑った。目はもう死んだ魚の目に逆戻りしている。

「自分の罪はどう足掻いても自分の元に返ってくるんだよ…

低い声で、かっこよく銀ちゃんは呟いた。
実際土方は無実だから、全然かっこよくなかったけど。


SHRが終わり銀ちゃんが教室を出た瞬間後ろから頭をはたかれた。
後ろを見ると、土方が鬼の形相で立っていた。

「痛あ!何するアルか!」
「当たり前だいきなりワケわかんない話振ってきやがって!」
「俺は数時間も説教食らうなんて嫌アル!」「だからって俺を引きずってんじゃねェよ!大体、」

そこで土方は一度言葉を切り、少し言いづらそうに、
「…大体、さっきのは確実に総悟が掛け合いに出される所だったろうが」
「…え?」
「え?って、お前気付いてなかったのか?」
「気付くって、」
「お前大体、特に最近はアイツばっかだっただろ」

アイツばっかだったって。途端に落ち着かなくなった。
そんな俺を見て、土方は小さくため息をついた。


「アイツがいないと俺にくるのは意外だった。……それよりお前、その、」

「ああ、ミツバさんに惚れたりしないから、安心するヨロシ」

「まだ何も言ってねェだろ!」
「顔にマヨで書いてあるヨ」


えっと言って慌てて顔を触った土方を冷めた目で見つめていたら、授業開始のチャイムが鳴った。


サドの事ばかり言っているつもりはなかった。サドばっかり構ってるつもりもなかった。
そもそも最近っていつ頃だ。
無意識で絡むほど好きなのか。って、キモイ。


一つため息を漏らして、休んでいるだろう沖田の事を無意識に考えていた。




***
昼休み、言われた通り職員室に行き、いつも通り屋上へと来た。
適当に日陰を探して、そこに二人腰かける。今日の銀ちゃんの昼御飯はシュークリームらしい。そんなのおやつにしかならないような気がするが、足りるんだろうか。


「で、神楽、お前沖田くんに何かした?」

「……何で」

「昨日の今日なら、明らかにお前だろ」


ああ、そうか。
昨日銀ちゃんに会ったんだった。
俺は素直に昨日あったことを話した。



「へー、結果今日休んでんなら、お前の勝ちだったな。最近確かにアイツ、顔色悪かったし」
「痣作っちゃったアル」
「そんなの、いっつも作りあってんだろお前ら」


…そりゃそうだけど。


「それよりお前、なんか良い事でもあったのか?」
「え?」
「少しスッキリした顔してるだろ」


まさかバレてしまうとは思わなかった。
昨日の、ミツバさんの発言は大きく俺を救ってくれた。
そして、気付いた事も一つ。


「俺、ずっと、男が男を好きになることを馬鹿にする奴が嫌いだったアル」
「ああ」

同性愛を批判して、笑いのネタにする、それが嫌いだった。好きになっただけだろ。それが偶然男だっただけで、バカにされる、差別される理由はない、と。

だけど。


「……きっと差別してたのは、自分もアル。同姓だから叶わないって最もらしい理由をつけて、逃げてたネ」


沖田のお姉さんは、同性だとしても愛すると、あんなに穏やかな顔で笑っていた。きっとあれは嘘じゃない。
そんな人の弟がサドだ。
それに、サドのことを本当にちゃんと見ていたら、分かった筈だ。
本当に本気で告げた思いなら、無下にするような奴じゃないと。


「だからね、銀ちゃん」
「ん?」
「俺、決めたアル」

はっきりと、告げる。
銀ちゃんはその言葉を聞いて、微かに笑った。






「俺、サドに告白するネ」







決戦は、明日。







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