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公園へ向かう途中、ハタと気付いた。
さっき神楽が言いかけていた言葉。
『せっかく約束守って真っ先にお前のとこ、』
つまり、コイツはまだ万事屋には行ってないってことか?
「おい」
「んだヨ」
海みたいな瞳が俺を映す。この感覚も、久しぶりだ。
「お前、まだ万事屋に行ってねェのか?」
「行ってないアル」
俺と約束してなければ、真っ先に行きたかったはずだ。
俺はすぐさま踵を返した。
「おい、どこ行くアルか!」
「万事屋」
「は!?」
「行きたいだろィ」
喜んで返事をすると思ったのに、神楽は少しだけ躊躇う気配を見せる。
「ま、まだ心の準備が…。それに、まだお前との約束…」
俺との約束は、きっと前半の言葉の言い訳だろう。それはちょっと気にくわないが、それもまあしょうがない。こいつにとっての万事屋がどれだけ大切なものだったか、欠片しか見てない俺にだって分かる。
「じゃあ、今果たせ」
「え?」
「約束」
帰ってきたら、返事をする約束。
俺は、昔より目線が近くなった神楽をしっかり見つめた。繋がる手に力を込める。神楽の瞳が、不安げに揺れた。
その不安を掻き消すように、はっきり告げる。
「お前が好きでィ」
「っ……、!」
とたんに真っ赤になる神楽。あ、ヤバい理性が。
赤くなってると自覚があるのか、神楽は俯いた。それでも隠しきれない耳は赤くて、思わず頬が緩む。可愛いなんて、昔は素直に思えなかったのに。これも二年間の間の成長だろうか。だとしたら、空いていた時間もきっと悪いばっかりじゃなかったのかもしれない。
「答えは?」
手をそっと引いて、覗き込む。
神楽はキッと俺を睨んですぐ目を逸らした。
「さっき、彼氏だって言ったアル」
「あ、やっぱ聞き違いじゃなかった。けど、」
直接な答え、もらってない。
「……お前、昔よりムカつく奴になったアルなァ」
「それは嬉しい誉め言葉をどうも」
「このドS」
「事実以外の何物でもねぇや」
この軽いやり取りすら懐かしい。二年前に戻ったみたいだ、とか。
微かに頬を緩めると、それを見ていた神楽は何故か尚更赤くなって俯いた。なにやらぼそぼそ呟いているが聞こえない。
「何でさァ」
「……っ、宇宙でモテモテの神楽様が付き合ってやるってるんだからそれでいいダロ!」
距離をとるように、手を繋いでない方の手で遠慮なく殴ってきた拳を反射で掴む。威力もスピードも上がってる。伊達に二年間海坊主と一緒にいたわけじゃないか。
というよりきっと今のは照れ隠しだよな。相当威力のある照れ隠しだが、今はそれすら嬉しい。
直接好きとは言ってもらえなかったが、まあそれはおいおいにとっておく。
もっと恥ずかしいシチュエーションで、でも絶対言わなきゃいけない瞬間を作って言わせてやろう。
「お前今絶対怪しいこと考えてたダロ」
不審そうな顔で神楽がじっとこちらを見つめている。
「まさか」
「嘘アル!」
「いやいや嘘じゃねぇよ」
「嘘、アルナ!」
「嘘でさァ」
「だから嘘アル……え?」
ぽかんと空いた口。
俺はすかさず神楽の手を引っ張り、少し屈んで口付けた。
「………っ!?」
二年前に一度、不意討ちで触れた淡い口付けを思い出す。
自分では触れたくても触れられなかった。
けど今は、触れられる。
ずっと、ずっと、ずっと
待って、待って、待った。
……やっと。
急に沸いてきた、神楽と一緒にいられるんだという実感に欲望が生まれ、二年前の比じゃないくらい深く唇を合わせる。
神楽が、息が続かなくなったのか俺の胸を叩く。
それでようやく、でも名残惜し気に唇を離した。
「っ、ば、馬鹿アルお前!信じられな…」
「神楽、」
神楽の肩に頭を置いた。
もう絶対、離さない。
「大好き、でィ」
「……!!」
ずっとずっと、一緒です
***
「お前、ここがどこか分かってるアルか!」
「道端」
「人が通ってたらどうするつもりだったアルか!」
「いいじゃねェか通らなかったんだから。それより、万事屋行きやしょう」
「お前も行くアルか?」
「そりゃ、万事屋の旦那に報告しねェと」
「?何をアルか?」
「娘さんは俺が貰いますって」
「……っ!…この、アホサド!!」
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title:青二才