「神楽お兄ちゃんね、前私が男子にいじめられてた時にね、‘女の子に手を出すなんて最低アル!’っていって、私のこと助けてくれたんだ!」
すっごく速くて、男子もびっくりして泣きそうになりながら公園を出ていってね、と少女は神楽との出会いを語り始めた。
チャイナも、これくらいの少女から見たらかっこいいのか。
俺からすればチャイナは可愛い部類に入るのだが。


……うん?俺、今何思った?

「そのときに笑いかけてくれた神楽お兄ちゃん、すごくかっこよくて!」

きゃあっと勝手に恥ずかしがって舞い上がった少女は、しかし少したつと今度は落ち込み始めた。うつむくとつむじが見える。


最近のガキは皆こんな感情豊かで百面相なんだろうか。面白いから良いけど。
何かあったの?なんて優しく聞き返す気分ではないので、少女が話し出すのをガムを噛みながら待った。

「この間ね、ママと買い物に行ってたときにね、見ちゃったの」

「…何をでィ」


少女は少し間をとって、寂しそうに答えた。
そしてその答えに、どうしてかほんの少し俺は動揺した。

「神楽お兄ちゃんが、凄くきれいな女の人とあるいてるとこ」


アイツが、女と?

嫌な汗がにじむ。チャイナだって男だし、女と歩いてたって、それが彼女だったって別におかしくはないはずなのに。
なんでか、凄く……。

「それがね、嫌なの」


俺は何も言えなくなり、静かに少女の発言に耳を傾けた。少女と同じことを思ったからだ。
程よく感じていた太陽の光が、急に強くなったような錯覚に陥る。


「仲良さそうに、嬉しそうに、神楽お兄ちゃん、笑ってて、寂しかった。……それでね、」


私を見て欲しい、って。




心臓に強い衝撃が走り、俺は目を見開いた。
この少女が誰の感情を言っているのか一瞬解らなくなった。勿論少女は自身の感情を言ったに違いないはずなのに、まるで自分の感情を暴かれたような、見透かされたような感覚に陥る。


アイツじゃなくて俺を見ろよ、と。



それは最近ずっと、銀八とチャイナが一緒にいる時に感じていた、自分自身気付ききれずにいた感情。


自分の、思い。




「す、き……?」



横にいる少女の存在を忘れるくらい、俺は動揺していた。
俺が、チャイナを好き?ちょっと待て、根本的におかしいだろう。
だって、俺もチャイナも男だ。
普段から授業や生活でも、同性愛は『冗談』でしかなかった。その話題はふざけている時だけで、俺だってネタにして笑った事もあった。チャイナだって笑っていた筈だ。


それは別におかしな事じゃない。好き、という感情は普通異性に沸くはずで、同性にそんな感情を持つのは普通ではない。
流石に嫌悪感は沸かないし拒否もしないが、自分が男を好きになるなんて思いもしなかった。というより、俺は一生誰も好きにならないとさえ思っていたのだ。


本当に、俺はチャイナが好きなのか。





そう思った瞬間、姉上が言った言葉を思い出した。


“私は本当に十四郎さんが好きよ。性別が違ったとしても、年齢が離れていたとしても、その他どんな壁があったって、本当に好きなら関係ないわ”



急にノロケを聞かされたのを不思議に思っていた。まさか何か感付いていたのか。


「お兄ちゃん?」



急に空気が変わったのを感じたのか、少女が不安げな顔でこちらを見ている。

「お兄ちゃんも、神楽お兄ちゃんが他の人と仲良くしてるの、やなの?」

「別に、んなこと…」
「お友だちだから当たりまえなのかな?」

「は……?」



友達に、こんな感情抱くのか?


「私もね、みえちゃんとあきちゃんが他の子と仲良くしてるとね、いやなの」
「そういうモン、なのかィ?」
「大好きなお友だちなら、そういうもの、だよ?」


友達だから、嫉妬してんのか?


もしそうなら、これは恋じゃなくて、ただの友愛だ。それすらチャイナに感じてるのかと思うと変な感じだが、さすがにそれは否定出来ないだろう。


恋なのか
友愛なのか



自分でも、この感情が何なのか分からない。
確かめる必要がある。


「おい、」
「え?」
「手、出しなせェ」


少女が首を傾げて俺を見た。きっと将来はモテるだろう少女の手に、残っていたガムを乗せた。


「…叶うといいな」

「……うん!」


少女が笑ったのを確認して、俺は立ち上がり公園を後にした。





決戦は、明日。





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