午後三時頃、俺は昨日チャイナに意識を飛ばされた公園に来ていた。


このくらいの時間なら、学生がいてもおかしくない時間だろうし、なにより少し気分転換がしたかった。


公園のベンチに腰かけ、来る途中で買ったガムを口に放り込んだ。
目をつむると、柔らかな風が頬を撫でるのが分かる。このままここで一眠りしたい。

「アイマスク持ってくりゃ良かったぜ……」

ゆっくりしてなさいと姉上には言われたが、ここならそれも叶いそうだ。
気持ちが落ち着くと、脳裏に何故か悩みがあるらしいオレンジの頭がチラついた。せっかくのんびりしてたのに何でお前が出てくるんだよ。大人しく銀八と屋上にいやがれ。
……屋上に今日も二人、だったんだろうか。
というか銀八にはその悩みとやらを話してるんじゃないのか?俺とは違って、アイツは銀八にやたらなついてやがるから。


「……?」


なんだかひどく胸の辺りが詰まるような感じがして首を傾げる。一体どうしたっていうんだろう。


その時ふと、足元に感じる気配。

「……ねぇお兄ちゃん」
「っ、なんでさァ」
こんなに近づくまで全く気づかなかった。この少女が完璧に気配を消すなんて不可能だろうから、俺がよっぽど考える事に集中していたのか。

少女は肩くらいの髪の黒髪を揺らし、周りをキョロキョロと見ながら訪ねてきた。

「ねぇお兄ちゃん、オレンジの髪の、‘神楽’ってお兄ちゃん知らない?」
「神楽?…そいつが、どうしたんでさァ」

まさかアイツの知り合いか。数年後には可愛い可愛いと周りから言われそうな少女。小学校低学年、てとこだろうか。
チャイナと精神年齢的にはぴったりだ。
その少女は俺の質問に、ほんの少し頬を染めた。


「今日も会えるかな、と思ったの」

会える、と言うと‘遊びたい’より少し深い、…まるで想いを寄せているかのような感じがする。
素直に遊びたいって言えよ。
少女は俺がそこまで怪しい奴だとは思わなかったのか、同じベンチの右隣にトスンと腰を下ろした。

「あいつ、そんなしょっちゅうここに来てる訳?」
「ううん、たまに。でもね、くるといっつも高い高いしてくれたり、頭撫でたりしてくれたり、お菓子くれたりするの」
「へぇ」
アイツがお菓子をやってんのはあまり想像できない。食い物は何がなんでも手放さない、食い意地の張りまくったような奴なのに。


小さい子には弱いのかと思いつつ首を傾げていると、少女は突然俺の顔を覗き込んだ。
ひどく純粋な色をした黒い瞳が俺を映す。

「…ねぇ、お兄ちゃんもしかして、‘沖田’?」
「……お前、何で、」
「やっぱり」

驚きに目を見開くと、してやったというように少女はにやりと笑った。

「意地悪で、そっけなくて、でも凄く強くて、不器用な奴だって、神楽お兄ちゃんが言ってたの。もしかしてお兄ちゃんかなって」

チャイナが、俺の話を?
というか、不器用ってなんだ。めちゃめちゃ器用だっての。
それにしても、チャイナが俺の話をするなんて思わなかった。意外すぎたのか少し心臓も音が速くなってる。

「……あのね、」
「ん?」


少女は目を伏せ頬をさっきより赤くし、しばらく悩んだような顔をした後、意を決したように俺を見た。

「わたしね、――神楽お兄ちゃんの事がね、好きなの」

一瞬何を言われたか分からなかった。

「は……?」
「だから、わたし神楽お兄ちゃんが、」
「いや、もういい」

さっきの反応や少し違和感のある言い回しは、チャイナが好きだったから出てきたのか。
俺は今までそういう意味で誰かを好きになったことはないからいつも不思議に思う。
好きに、そんなに種類があるものなのかと。どうしてそれが恋愛感情だと気付けるのか。

いくら告白されようと感情は動かなかった。皆俺との接点なんかなかったような女ばっかだったのに好きだという。どこをみて何を思って好きだと決めているのかさっぱりだ。
この少女は違うのだろう。チャイナの優しさに惹かれたんだろう。


少女は言ってすっきりしたのか笑った。
「おかあさんとおとうさんには恥ずかしくて言えないの。でも、誰かに聞いてほしくて」
……随分ませたガキだ。もしかすると小学校中学年くらいか。それとも最近のガキはみんなこうなのか。


しかも俺、都合よく話の聞き役として選ばれてしまった。
一度ゆっくり考えたくてすっきりしたくて公園に来たのに、どうして小学生の恋愛話を聞かなくちゃならないんだろう。




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