夢からさめて見上げたソレは

目を覚ますと、見慣れた天井が視界に入った。寝ぼけた頭でそれを眺めながら考える。
布団に入った記憶がない。あと、俺が抱きついているこの兎のぬいぐるみは何だ。


まずどこから記憶がないのか考えて、とりあえず起き上がった。


「……ッ!?」


否、起き上がろうとして腹部の激痛に耐えきれずにまた布団に沈んだ。
今度は耐えるようにゆっくり起き上がる。
腹を見ると、折れてはいないようだが殴られたとわかるくらいくっきり痣が出来ていた。
昨日は確か、チャイナと一緒に帰って、公園で喧嘩になって……それから?
その時感じた事や細かな会話を思い出すことが出来ない。


頭が整理出来ないまま天井を睨んでいると、数回のノックの後扉が開いて、姉上が入ってきた。

「起きたの?おはよう、そーちゃん」
「おはようございます、姉上。……あの、俺ァ…」

姉上はどこか可笑しそうにクスッと笑った。

「神楽ちゃんに運ばれてきたのよ。そーちゃん」

運ばれて……?


「寝てないそーちゃんを心配して、神楽ちゃんはそーちゃんを連れてきてくれたの」
公園から途切れた記憶と腹の痣。それと姉上の言葉になんとか現状を理解した。つまりチャイナに殴られて意識飛ばして運ばれてきた、と。


……っていうか、
「……どうして…」

寝てないってばれてるんだ。チャイナが何か言ったのか。それとも足音で起こしてしまっていたか。

「私が起きたら必ずソファにいたし、目の下に隈は出来ているし、冷めた牛乳が机に起きっぱなしだったもの」



バレていた上に心配をかけていたことが情けなく恥ずかしい。微かに動揺したのを見抜かれたのか、姉上は優しく笑って言った。

「起き上がれるなら下に来て?お昼ご飯だから」
「はい、わかりやしー……」

素直に頷きかけて、止まる。


…お昼ご飯……?



***


俺が目を覚ました時点で昼を回っていたらしい。
昨日意識を失ってから今まで、寝不足も祟ってか目が覚めなかったようだ。それにしてもそんなに長いこと寝たのはいつぶりだろう。最近の不規則な生活を除いても昼を過ぎるまで眠ったことはなかったのに。


目の前に出されたパスタを口に運んだ。相変わらず姉上の料理はプロ顔負けに美味い。うちは両親共に海外へ出ていていないから、姉上が料理全般はやっている。料理の腕が上がるのは自然なことなのかもしれない。

「美味しい?」
「美味しいです」

優しく笑われて、笑い返す。近藤さんや土方以外の奴が今の俺の表情を見たら怪訝な顔をするかもしれない。チャイナはどうだろう。ぼんやり考えている途中で、姉上のパスタがタバスコで赤く染まるのを見て慌てて止めた。
「かけすぎですぜィ、姉上」
「いーじゃないちょっとくらい」
「パスタが見えなくなるくらい赤く染まっていればそれはもうちょっとじゃありやせん」

どこの土方だ。あっちはマヨネーズだけど。昔から変わらない、二人して病院送りになりたいのか。いや、土方だけなら大歓迎だけれども。

「とにかく、それ以上は駄目でさァ」
はい、とやや不服そうに返事をして、姉上は目の前のパスタを食べ始めた。姉弟ではあるが、最早辛い事しか分からなそうなソレのなにが美味しいのかは未だにさっぱり分からない。
体が弱いのは自覚済みなのだから、ちょっとは慎んで欲しいものだ。


だが心配をかけたのはお互い様らしい。
フォークを止めて姉上は俺に言った。

「今日は学校を休んで、ゆっくりしてちょうだいね」
大人しく頷く。
どうせ昼を過ぎているなら対して授業は残っていない。あまり支障も出ないだろう。
「姉上がそう言うなら、そうしまさァ」
「たまには離れていたほうが、見えてくるものもあるわ」


思わず首を傾げた。一体なんの話だ?


「ねぇそーちゃん」
「はい」
「どうして最近寝てなかったの?」


なんとなく俺は、姉上はその理由を聞いてこないような気がしていた。ただ優しく見守るだけで、踏み込んではこないと。実際に今まではそうだったはずだ。なのに今回だけ何故?
そんな疑問が目で伝わってしまったのか、姉上は軽く苦笑して言った。

「今回は少しだけ…私でも役にたてそうな気がしたの。……もしかしてその悩みに、神楽ちゃんがいるんじゃない?」


ドクンと血流が脈を打ったような気がした。なんで、とどうして、を胸の内で繰り返す。


「神楽ちゃんも少し……、悩んでいるように見えたの」


チャイナが悩んでる?少なくとも昨日俺はそんなこと気づかなかったが。
姉上は俺の分もまとめて、食べ終わった皿を台所に片付けた。

「ありがとうございまさァ」


「ねぇそーちゃん」
「何ですかィ?」
「あのね……」




姉上がこの時言った言葉の意味が、俺には全く分からなかった。





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