階段の上から思わず叫んだ。

「マヨラー!なんでお前ここに!」

言ってから思い出す。そういやこの二人付き合ってるんだった。
土方は階段の上にいる俺をギッと睨んで未だに不機嫌そうな表情のままぽそりと呟いた。

「今日はまだコイツの、……顔、見てなかったから」
「と、十四郎さん…!」


かぁぁああっとミツバさんが赤くなる。暗いからわかりづらいが、土方の頬も少し赤い気がする。
うわぁあっちー。こんなデレデレの土方出来れば一生見たくなかった。レアだけど。
これを高頻度で見せられてるだろうサドにちょっと同情した。
まぁ赤くなってるミツバさんは誰もが見惚れそうなくらい可愛いけれど。
その愛しのミツバさんに会いに来た土方はなんでこんなに不機嫌そうなんだ?

「……アイツは?」
「え?」
「そーちゃんは、……疲れて寝てるわ」

あの子に殴られて気絶してるわ、とは流石に言いづらかったか。思わず苦笑する。それを聞くと、土方はより一層不機嫌そうになった。

「チャイナ、お前、コイツに変な気おこすんじゃねェぞ」
「……」
「んだよその目は」

呆れてるんです。弁当を食べるときくらい全力で。
不機嫌だった理由も知れた。用はサド以外の男がミツバさんに近づくのを嫌がっているんだろう。うわ、心狭。
まあ俺に限ってそれはないが、その辺の奴等にならその過保護さと威嚇は正解なのかもしれない。
俺が好きなのはアンタが好きな女の弟ですと言ったらコイツはどんな反応をするんだろう。嫌悪か、拒絶か、軽蔑か。


「ミツバさん」
「何?神楽ちゃん」
「せっかく電話してもらったのに悪いアルけど、手もはずれたし、やっぱり帰ることにするネ」
正直土方の目線もうざったいし。
「……わかったわ」

ミツバさんは少し残念そうに微笑んだ。
その笑みから目線を外し、荷物をとるために沖田の部屋へ戻った。

ぐっすりとウサギを抱いて眠る沖田の頬にそっと触れる。
起きたらまた、悪態をついたりつかれたり、そんな日常。今日のイレギュラーは心にそっと留めておこう。幸せな記憶として。
「じゃあナ、沖田」


頬から手をどけて荷物を持ち上げ、振り返らずに部屋から出てドアを音がしないように閉めた。


***


階段を降りると土方はもう奥のリビングへ消えていた。ミツバさんが俺を見て優しく微笑む。

「また来てね、神楽ちゃん」
「絶対また来るアル!」

出来れば土方のいない時に。意地悪っぽく笑うとミツバさんは少し恥ずかしそうに笑った。
仲の良い二人。

この人なら、もしかして。


そんな俺の弱い心が、ポロッと言葉をこぼした。
好きな人の姉なのに。普通に普通の恋をしている人なのに。

「……もし、」
「え?」
情けないくらい弱々しくて小さな声だった。
目も合わせられない。自分の少し土のついた靴を見つめながら言葉を繋げる。

「ミツバさんが、男で、」

すごく変な質問をしようとしている自覚はあるつもりだ。現にミツバさんも少し不思議そうな顔をしている。

「土方を好きになったら、諦めるアルか?」
「私が、男の子だったら…?」


ミツバさんが考え込む仕種をみて急に怖くなった。もし、否定の言葉が出てきたら。そして俺がサドを好きなんだと感ずかれてしまったら。

「や、やっぱり俺っ、」
「変わらないと思うわ」

帰る、というより早く、ミツバさんはきっぱり言った。俺は間抜けに口を開いたまま、固まってミツバさんを見つめた。ミツバさんの目には疑問も嫌悪も浮かんでいない。暖かな柔らかい光を宿したままだ。


「友達じゃきっと辛い。男の子でも気にしない。誰が認めなくても構わない。だって好きなんだもの」
「……ぁ、」


体が震えて、目から一粒静かに涙が溢れ落ちた。


「神楽ちゃん!?」

ミツバさんが驚いたように目を見開く。俺は慌ててその涙をぬぐい、取り繕うように笑った。

「急に目にゴミが入っちゃったアル。驚かせてごめんなさいヨ」


そのままドアノブに手をかけて、扉を開く。
視界の隅にチラリと入った土方に思った。お前いい人掴まえたよ。

「お邪魔しましたアルー!」
「また来てね、神楽ちゃん!」


ミツバさんの優しい言葉を背中に聞きながら、俺は夜の道を走り出した。
月が真ん丸に輝いていて、兎が踊っているように見える。それは今の俺の感情なのかもしれない。


軽蔑も、怪訝そうな表情もなかった。
どこかで俺は、俺のこの感情は銀ちゃん以外みんなに否定されるものだと思っていた。気持ち悪いものだと。けれどミツバさんは違った。土方はどうだろう。



星がキラキラ、キラキラ、月に負けじと光っているのを眺めながら、俺は帰り道を駆け抜けた。




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