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喧嘩をするために今日呼んだのだと言われて、どうして俺はこんなに苛ついてるんだろう。
別におかしな話じゃない。元々こいつとの関係はそんなもんだ。喧嘩友達といえばマシな方。悪く言えば友達ですらないように見える、そんな関係。
だから今日がおかしかったんだ。
それなのに、できればそうじゃなければ良かったと思ってる。そんな用だったのかと、勝手に裏切られたような気分になってる。
それは一体どうしてなんだろう。
戦いながら考える。自分の攻撃が粗く隙も多くなってることに気づいても、止められない。
どうして、どうして、どうして。
もしも銀八だったらコイツは、さっきみたいに楽しそうに話をして、たこ焼きとか食って、楽しそうにしてるんだろうか。
銀八だったら。
俺じゃ駄目なのか。
意味も分からず悔しくなって、とにかくそのよく分からない感情を目の前のチャイナにぶつける。
「調子、悪いアルな!」
コイツと俺の力は大体一緒だから、俺が荒れればコイツが有利になる。俺がこんな風に悩んでるのも、荒れてんのも、元を正せばコイツが関係してるんだ。
「っ誰の、せいだと」
「…?何アルか?」
チャイナのせいだ。
そう思って、思った瞬間に動きを止めた。
チャイナが気になって、銀八がチャイナと一緒にいると苛ついて、チャイナに好きな奴がいるって聞いて動揺して、銀八といるときのほうが楽しそうにしてるチャイナを見るのが嫌で。
つまりそれは。
つまり、もしかして俺は、
……俺は、
チャイナを。
決定的な瞬間に気づく前に、みぞおちに感じた衝撃と共に俺は意識をブラックアウトさせた。
***
ふわりと沈む意識のなかで、夢を見た。
いつかの夕方の放課後。
俺は机に突っ伏して寝ていて、それを椅子に腰掛けてチャイナが見ている。
チャイナの表情がいつもと違って切な気で、空のような瞳も揺れていて、俺は無意識に息を飲んだ。
淡い、空気に溶ける泡のような声が、それでもはっきりと耳に届いた。
「……好き」
そう言って、透明な涙を流すチャイナ。
これは夢、なんだろうか。
チャイナを好きらしい俺が見せた願望、なんだろうか。
けれど、そう思うのが罪であるかのように目の前の光景は現実味を帯びている。
俺も好きだと抱き締めたいのに、目の前の俺はもどかしいくらいちっとも動かない。思わず自分を殴りたくなった。
そこでその夢は途切れた。
***
目を覚ますと、チャイナの瞳と目があった。
何があったのか、上手く思い出せない。なんでこんなにみぞおち痛いんだっけ?そばで心配そうに瞳を揺らすチャイナ。
「……まだ寝てろヨ」
「……そしたらお前が、」
銀八のところに行ってしまう。
「俺が、何アルか」
「お前が……なんだろ」
バレないようにはぐらかす。チャイナは不思議そうに優しく笑った。
ああ可愛いな、って何を思ってんだ俺。
意識が未だにしっかりしない。元々寝不足だったのがたたってるのか。
「もう少し、寝てろヨ」
チャイナが俺の瞼に被さるように手を被せる。
馴染むような暖かな手に、開きかけていた意識がまた遠退くのを感じた。
閉じ行く意識の中で、その手をそっと掴んだ。
「…お前がずっとこうしてんなら、寝まさァ」
「かっ、彼女にでもやってもらえヨ。こういう事は」
やけにチャイナが慌てているのが声で分かる。
「……お前が、」
「え?」
彼女なんかいらない。
「俺は、お前がいいんでィ」
どうしてそう思うのか、肝心な答えを俺はどこかに置いてきてしまった気がする。
暖かな、心地の良い手をしっかりと握ったまま俺は眠りについた。
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