青空に焦がれる茜

ベットの横に置いてある時計をぼんやりと見た。
……2時、だ。
いつもならとっくに爆睡している時間。けれど眠れない。胃の辺りがもやもやする。



一体全体、なにがこんなに苛立つんだろう。




少し前から、チャイナと俺の接点が異様に減っていった。
チャイナに話しかけようとすれば既に他の誰かと話していて、目すら合わなくなった。そしてそれは話すきっかけが無くなるという事でもあり、つまりここのところ、授業中以外はほとんど接点がない。
そしてそれが面白くない。けれど、それの何がこんなに面白くないのかが分からない。


銀八とチャイナ、双方に聞かれて、未だに答えが見つからない問い。
『どうしてそんなこと聞くの』
と。
そして共通して、その質問をしたときの瞳は冷たかった。まるで俺に非があるかのような。
「なんだっつーんでィ…」
頭をグシャグシャと掻いて起き上がる。眠くなるまでこの際起きていようと、リビングへ向かった。

姉を起こさないように気を配り牛乳を電子レンジにかける。本当はコーヒー辺りがいいが、カフェインが入っているので遠慮する。
温め終わり、机にコップを置いてソファにごろんと横になった。
自分のよく分からない感情もそうだが、絡み付くように離れない言葉がもう一つ。

『神楽、好きな奴いるんだってさ』

聞いた瞬間何故か頭が真っ白になった。
瞬時に出てきたのはクラスメイトの顔だが、チャイナは友達としか見ていなかったような気がする。だがクラスメイト以外の交友関係なんか知らない。
お前は神楽についてそんなに知らないんだよ、と言われたような錯覚に陥った。

そしてどうして俺はそんなにその事を気にしているのか。野次馬精神ならこんな嫌な気分はしないはずだ。というより野次馬精神なんか俺にはない。
じゃあなんで?と問いかけても、重い扉で出来た扉を開けることはできなくて、その扉の向こうにある答えには会えないままだ。


そんな事をつらつら考えているうちに、結局牛乳にも手をつけず、俺はソファで眠りに落ちた。


この日を境に俺の睡眠平均は2時間程になる。


***


頭が鉛のように重たくて上がらない。これだけ寝ていなければ当たり前かもしれない。時々吐き気に襲われ、なにもしていないのにたまに視界が歪む。


最近俺の睡眠補給はもっぱら授業中だ。チャイナが時折心配そうな顔で見てくるのが分かって、それが不思議と嫌じゃない。
でもさすがに寝なきゃやべェな……。
睡眠不足のせいか今一頭も回らない。
けれどそれでも構わなかった。頭の回転が悪くなれば、意識がぼやければ、考えたくないことを考えなくてすむから。



いつのまにか昼食が始まるチャイムが鳴って、あぁまたチャイナは銀八のところに行くんだろうななんてぼんやりと考えていたら、珍しく声をかけられた。

「おい、サド」


こうやって話しかけられたのは、一体いつぶりだろう?
そのせいか、心臓がドキリと跳ねた。


「なんでィ」
「今日の放課後、空いてるアルか」
「多分」
じゃあ、と切り出した台詞はやや躊躇した後に出てきた。

「今日、…その、……一緒に帰らないアルか……?」
「は……?」

思わず間抜けな声が出た。今まで一緒に帰った事は何度もある。
しかしそれはいつも何となく流れでそうなっていたり、喧嘩の延長戦上だったり、つまりはダイレクトに一緒に帰ろうなんて言って帰った事はないのだ。
それはチャイナも分かっているのか、とても不本意かつ不機嫌そうだ。

「……嫌ならいいアル」

返事をしない俺にしびれを切らしたのかあっさりと話を切り上げた。

銀ちゃんのところ行くネ、と歩き出したチャイナの腕を慌てて咄嗟に掴んだ。
驚いたのか、目を見開いて見つめてくる。
俺は焦った事がバレないように、ニヤ、と口の端を上げた。
「嫌なんて誰も言ってないだろィ」
「……それならさっさと言えヨ」
ムッと頬を膨らませた膨れっ面が面白い。
「いやぁだってまさか、あのチャイナからそんか発言が来るなんて思わなかったから」
「きっと熱があるアル」
「自分で言うなよ」
「…結局帰るアルか一緒に」
「しょうがねェから帰ってやらァ」


一緒に帰る、チャイナと。それが嬉しくてにやけそうになるのをこらえた。
ムカついてムカついてどうしようもなかった相手の筈なのに。

「……サド」
「あ?」

珍しくチャイナが苦そうな、何かを言いづらそうな顔をしている。

「その、…そろそろ、手を離せヨ…」
「えっうわっ」

慌てて掴みっぱなしだった手を話す。焦りを隠す余裕もなかった。

「別にそんなに慌てなくても」
変なヤツ、と笑われて、またもや不意に心臓がドキリと跳ねた。
じゃあな、と言い銀八の所へとチャイナは駆けていく。
















その途端浮上していた気持ちは墜落するようにぺちゃんと潰れて抉れた。
銀八の所に行って欲しくない、この感情の名前を、早く見つけなければならないような気がした。
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