綿飴(沖→神→銀)
触れてしまえば終わる話だった。
俺が神楽を好きになったのは高一の初めだった。
好き、とはっきり自覚した訳じゃなく、綿飴が水分を含んでゆっくりと溶けていくような、そんな感じでいつのまにか狂いそうなほど好きになっていた。
含んだ水分は多すぎて、俺は溶けに融けてもうどろどろだ。
「チャイナ、」
夕日もゆっくりと、身を溶かそうとしていた。教室が神楽の髪と同様に、俺の視界ごとオレンジに染めていく。
「何アルか」
「補習?」
「そうアル。銀ちゃん待ってるネ」
「ふーん」
俺の横で、神楽が何もない黒板をじっと見つめた。
その行動の意味を、俺はしなくなくとも理解出来て、心臓が軋んだ。
いつもあそこに立って、少しだるそうにキャンディを加えてる銀八。
たまにこちらを向いて苦笑する銀八。
ニヤニヤ笑いながら神楽を指す銀八。
面影というよりは、もはや記憶にべったりと張り付いた残像だ。
神楽が一体どれを思い浮かべてるのかなんて知らない。
神楽も、俺がこんな風に神楽を見ている事を知らない。
けれどそれでいい、はずだった。
溶けていることは、本人だけが知っていればいい。
でも。
「帰れヨ、お前」
「嫌でィ」
「帰れ!」
「嫌、でィ」
なぁ、頼むからそんな必死な顔しないでくれよ。
二人きりになりたいなんて分かってんだよ。
だけどそれは、お前だけじゃないんでィ。
「頼むアル…沖田」
頭を垂れて、神楽はつむじを俺に向けた。
あの神楽が頭を下げている。
夕日もろとも、心に巣食う綿飴ごと、今この瞬間に溶けて、消えた。
「なぁ、神楽。頼みがある」
「それを聞いたら、帰ってくれるアルか?」
「ああ。邪魔者は帰りまさぁ」
空っぽの今の胸にあるのは、ただ、狂ってしまった感情と、全てを飲みほしそうな程の孤独感。
「頼む」
女々しい事は百も承知。
きっとこんな頼み、神楽が酢コンブについて熱く語る時くらい無駄なもの。
抉るほどの傷を残して。
好きって、言って下せェ。
沈黙があたりを支配して、小さな夕日色の頭が動いた。
最後の神楽と銀八の補習。最後の神楽と俺の関係。
いっそ全て最後なら、そのまま溶けて消えられたのに。
後書き
沖神で初の悲恋。
次はきっとベタ甘書くから許して沖田!
んーinfoでも書いてありますが、やはりどうも悲恋・死ねたは苦手なようです。