ハロウィン

「トリックオアトリート」
「……は?」



本日10月31日。
といえば、勿論、ハロウィン。


***

寒くなったこの季節にはまだ暖かい、いささかマシなお昼頃。
お菓子を貰いおうと張り切っていた途中に、万事屋の扉が叩かれた。扉を開くと、最近顔も見なかった沖田が立っている。思わず苦い顔をした神楽に放った開口一番が。
「いや、だからトリックオアトリート」
「いや、そういう事じゃねーヨ。バカサド」

神楽は急いで扉をしめようとしたが、沖田に阻まれて出来なかった。


「お菓子はないんですかィ」
「お前、買えばいいダロ!」
「わざわざ買うの面倒」


それをいうなら屯所近くのコンビニより遠い筈のここにわざわざお菓子貰いに来る方が面倒だろ。

「お前それにもう子供じゃないアル」
「未成年は立派な子供でさァ」
「屁理屈」
「ガキ」

で、結局お菓子くれるんですかィ?とニヤニヤしながら聞いてくる。これは多分、お菓子がないと分かっていて聞いているんだ。畜生久々に会ったらこれか。
神楽はため息をついて、改めて沖田を見上げた。
変わっていない栗色の髪に濃い赤色の瞳。しかしその髪には砂ぼこりがつき、頬や目元には幾つか小さな切り傷がある。


……なんでもっと早く気づかなかったんだ。


「お前、戦いに行ってそのままこっちに…」

目を合わせたまま呆然と呟く。沖田は急に笑みを引っ込めて、いつもの無表情のまま顔を逸らした。

「気づかなくていいとこだろィ、そんなとこ」
「だってお前、それなら体休めるのが先ダロ!お菓子なんかより…!」
焦れったさに詰るように叫んだ。
それなのに沖田は、またその頬に笑みをたたえて言った。
「で、結局あるんで?」
「そんなの今、……っ、!!」

言い切る前に唇を塞がれた。大きく目を見開く神楽に、ぼやけながらうつるのは切なそうな色を含んだ赤。

「……っ、はぁ、お前」
「…いや、だってお菓子持ってない奴には悪戯…」
「悪戯でキ、キスとか…」

数歩後ずさる。多分今神楽の顔は真っ赤だろう。
何も言わない沖田に、今度は怒りが込み上げてきた。
「っ、バカサドッ…!」
拳を作って高速で突き出す。しかしその拳は沖田に掴まれた。
「離せヨ!」
「嫌でさァ」

何で、そう聞こうとして体制が崩れた。手首を掴んだ沖田がそれを自分側に引っ張ったから。

すっぽりと沖田に包まれて、よく分からない安心感に襲われた。
黒い隊服に顔を埋めたくなるのを、ぎりぎりの理性でとどめる。


「おい、……」
「本当は菓子が欲しい、とかじゃなくて」
「え?」
抱き締めるその腕の力が強くなって、今度こそ神楽は隊服に顔をくっつけた。
ムカつくものでしかなかった顔も、声も、全部。
「真っ先に会いに行く、口実が欲しかったんでィ」


愛しいなんて、どうかしてる。


「恥ずかしい事、言うな、…バカ」
「あれー?チャイナ耳まで真っ赤…ぐっ!」
指摘されるのが恥ずかしくて、避けられないのを良いことに神楽は沖田に頭突きを繰り出した。

「ざまあみろ、アル」


もう頭突きは嫌だったのか、頭突きの勢いのまま背中に回した腕については、沖田は何も言わなかった。





ハロウィンそっちのけ。







まあ、それもアリでしょう。
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