確かな境
沖田♂×神楽♂パロ
苦手な人は閲覧注意!!
いつから好きだった、なんて完全な境目があった訳じゃない。
けど俺は、アイツを好きになって。
ずっと傍にいたい、を優先した。
***
「やっときたアル調理実習っ!」
ひゃっほう!と神楽は身を投げ出すように階段を飛び降りた。
「足挫いてもしらねェぞ」
はぁ、とため息をついて沖田がゆっくり降りてくる。
「俺がそんなドジ踏むわけないアル!」
「サルも木から落ちるって言うだろィ。あ、ゴリラか」
「んだと!失礼なヤツネ!」
数歩先を歩くのを止めて沖田を待つ。
横を歩きたい、とか。
もう慣れた鈍い痛みは無視。
「へえ、珍しいこともあんだなァ」
待つなんて。ニヤニヤ笑う沖田にパンチを送り込む。パシンと小気味良い音がして右手を掴まれた。
「ふん!素直に殴られとけヨ」
「んなのごめんでィ」
面白そうに話ながら、繋がれっぱなしの指を意識する。動揺が悟られないように身を引いた。
「……手、離せ」
「ん?ああ。悪ィ」
するりと離れた箇所が空気に触れてヒヤリとするのが寂しいと思った。自分から離せと言った癖に。
矛盾だらけだ。
友達でいることを決めたのに、この感情は消えたりしない。
「……始まるアル。早く行くネ」
消えてしまえ、早く早く。チクリと痛い胸の疼きごと。
***
「作る手順は以上。各班仕事を分担してやるように!」
先生の少し長すぎる説明が終わって、早速班で調理が開始される。
自由に作ったこの班は野郎だらけだ。
神楽、沖田、土方、近藤の4人。
いつもは俺の位置に山崎が来るのだが、何でもミントンの県大会があるらしい。
「じゃ、総悟。マヨネーズ持ってこい」
一番必要な物だろ、と至極真面目に土方は言う。ちなみに今日の料理は親子丼だ。
「トシ、毎回言うがマヨネーズは最後にお前だけかけろ。なっ!」
少し困った顔で近藤が土方をたしなめる。
「アンタの変な味覚についていけねェでしょう」
「チッ。まあしょうがねぇか」
「おい、雑談してる暇ねーヨ」
そうしてやや不安が走る中、調理は開始された。
***
始まると予想外にも割とまともだったこの班で、最も意外だったのは沖田の手際がいい事だった。
真面目な顔、真剣な瞳。ざっくりと鶏肉を切っている姿は多分端から見たらそれはもう――、
「え、総悟君料理出来るんだ!意外!」
他の班の、まだ名前を覚えていない女の子、さらにその言葉で何人もの女の子がわらわらと集まってくる。沖田は無視して肉を切り続けている。土方も同様に人気があるのだが、もう学んだのかお湯を沸かすという、さして見映えのしないことをしていた。
かくいう俺もまあ、お湯を沸かしているんだけど。
「こいつら時間内に終わんないよな」
「自業自得、アルナ」
心底うざったそうな土方。だけど神楽はそれよりも、もっと醜い感情で表情を曇らせていた。
柔らかな香りのする、可愛らしい女の子が、沖田の腕前を褒め、可愛く笑っている。
ズキリと心臓が痛い。こんな光景はこれから先だってたくさんあるだろうに。
不意に土方がポツリと呟いた。
「……辛いか?」
「へ?」
「――…、いや」
「?………あ、お湯沸いてる」
土方が言いたい事は分からなかったけれど、今はとにかく沖田から目を逸らしたかった。
なのに。
「お湯沸いたならチャイナ、ネギ切ってくれねーですかィ」
話しかけてくんなヨ。
女の子傍にいるの見えるダロ。
「…お前は何するアルか」
「あっちの班で肉切ってくる」
切ったら少し分けてくれるって言うんでィ。お前嬉しいだろィ。
…って、嬉しいけど嬉しくない。
いかないで、ここにいろヨ。
「そのまま戻って来んな」
「へいへい」
適当に相づちを打って沖田はいってしまった。然り気無く手を引く女の子をいまじく見つめる。
「マヨ、そっちの鍋任せたアル」
「おー」
「隙を見計らってマヨネーズ入れるなヨ」
「いれねーよ!」
「トシ、入れるなよ?」
「近藤さんまで!!」
軽口を言い合って包丁を手にする。切れ味は中々良さそうだ。
それならバッサリこの女々しい気持ちを切り落としてくれたらいいのに。
トントンとネギを切る。その音に全神経を傾けようとしても、どうしたって雑音が耳に入ってくる。
それが沖田絡みだと分かるくらいそっちに気持ちを持っていかれている自分に腹がたった。
その時。
「沖田君って神楽君と仲悪いよね」
苛立ちも忘れて手を動かしたまま顔を上げた。否、顔が上がった。沖田の背中が見える。
「何アホ言ってんだアイツ」
同じく実は聞いていたらしい土方から嘲笑の声が漏れたが神楽には届いていなかった。
「そう見えんのか」
「だっていっつも殴りあいしてるでしょ?」
「ああ」
「嫌い?」
スルリと入り込んできた単語は、俺の背筋を冷ました。そんなこと聞いてどうするんだ。
そしてそれを聞いた沖田は、包丁を置いてあっさり答えた。
「大嫌いでさァ」
その次の瞬間、確かに何かを切ったのにトントン、という音が消えた。
そして鋭く痛む指。
「おい、チャイナ大丈夫か!?」
指を切った事に気付いたのは、土方が神楽を保健室へ連れていった後だった。
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